自分が処方されている薬、何で飲んでいるか知っていますか?
私は病院勤務をしているので、患者さんに既往歴や内服している処方を尋ねることがよくあります。
けれども、自分の内服している薬の名前、なぜ内服しているかという理由を把握していないケースがよくあります。
胃カメラや大腸カメラ・外科的手術を受ける際に血液をサラサラにする薬を飲んでいると、一時的に止めたり、(入院して)内服から注射薬に変換する必要が出てきます。
血液サラサラ系の薬は、本人も気づかないうちに処方されていることが結構多いので、要注意です。
<血液をサラサラにする薬って、どんな病気で処方されるの?>
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
- 深部静脈血栓症
- 心臓弁置換術後
- 心房細動
- 脊柱管狭窄症
など
バイアスピリンはその代表ですが、安易に処方されているケースもあります。
ある患者さんは、上に挙げた既往歴が1つもないのに、バイアスピリンを内服していました。
胃カメラの検査説明をしている際に気づいた私は、なぜ内服しているのか尋ねました。
すると、「ちょっとぼーっとすることがあったと言ったら、かかりつけの先生が出してくださったんです。」とのお返事。
MRIなどで脳梗塞と調べたわけでもないし、採血検査を受けた形跡もありません。
もし患者さんが言うように、本当に「ぼーっとする」という症状だけで処方したとしたら、なんとも怖い話です。
バイアスピリンは血液をサラサラにしますし、その作用は長く、もし外科手術などをする場合には、7日間止める必要があると言われています。
また、心筋梗塞や脳梗塞の発症時、これらの血液サラサラ系の薬を内服していると、大量出血してしまうために禁忌となる治療法もあります。
そんな薬を安易に、脳梗塞防止に・・・と出していたとしたら?
このような話は何人もの患者さんから聞いているので、脳梗塞の診断がつく前から予防的に処方する医師もいるということでしょう。
投薬歴が、生命保険の加入を妨げる?
では、この女性が生命保険に新規で加入しようとしたら、どうなるでしょうか?
「待った」がかかるでしょう。
バイアスピリンは本来、脳梗塞を起こすなり、血管が詰まったことによる症状が一度でも出た人に、再発予防として投薬するものだからです。
そうなると、「ぼーっとしただけで処方された」という本人の説明を、生命保険会社が信用してくれるでしょうか。
恐らく、保険診療のレセプトを通すために、「脳梗塞」か「脳梗塞疑い」の病名が女性には付けられていることでしょう。
となると、麻痺も言語障害もないし本当に脳梗塞かわからないのに、バイアスピリンを内服しているという事実から、リスクの高い人=引受拒否、となる可能性があるのです。
脳梗塞を起こしやすい人というのは、心筋梗塞を起こしやすい人でもあります。
もしかしたら、糖尿病予備軍かもしれませんしね。
バイアスピリンという投薬内容から、ここまで推測されるのです。
怖いでしょう?
生命保険で問題となる投薬の例としては、睡眠薬や鎮痛薬も挙げられます。
私の職場にいた女性は、<生命保険と健康状態の関係「睡眠導入剤 睡眠薬 不眠症」>でお伝えしたように、自分のカルテ上で親の睡眠導入剤の処方をしていました。
当初は本人が内服していたのですが、親のためにそのまま自分の名前で処方していたのです。
睡眠薬を継続的に処方されていると、保険会社は彼女のことを、精神疾患ありと判断します。
投薬期間が長ければ長いほど、そうなりますね。
痛み止めに関しても、そんなに長いこと鎮痛薬の処方が必要な状態であるということは、このあと状態が悪化して入院治療や手術を受ける可能性があります。
長期間の鎮痛剤により、胃潰瘍を起こして緊急入院するかもしれません。
そういった一つ一つの「かもしれない」「可能性がある」を、投薬歴が示してしまうのです。
安易に処方を受けると、生命保険の加入には不利に働くことがあるというのは、事実なのです。
国も勧めているスイッチOTC医薬品
<「花粉症」でも生命保険加入時に申告が必要?>でも投げかけたことですが、保険診療を受けると既往歴や投薬歴が残ってしまいます。
すると、新規に生命保険に加入する際には告知しなくてはなりません。
花粉症は患者数が多すぎることと、命に直結する病気ではないことから、告知不要としている保険会社すらあります。
季節性の花粉症だけで引受拒否になることは、ほぼないでしょう。
確かに、最近ではドラッグストアで購入可能な薬も増えました。
ある程度の症状なら、市販薬での対応も可能でしょう。
国も増大する医療費抑制のために、ドラッグストアなどで購入可能な市販薬を推奨しています。
その一つが、平成29年1月から開始された、セルフメディケーション税制です。
(制度概要については、厚労省のセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)についてを読んでくださいね。)
これは、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるという制度です。
確定申告も必要になりますし、そんなに高額の市販薬を必要とするのなら、医療機関で処方を受ける方が安いし確実のようなので、個人的にはどのくらい普及するのかな・・・と思っていますけれど。
市販薬は、うまく使えば診療記録を残さずに、症状を軽くすることができます。
しかし、本当に市販薬に頼っていれば、生命保険会社にバレることはないといいきれるでしょうか?
保険診療を受けていなければ、セーフ?
生理痛のひどい人が、市販のロキソニンを常用していたとしましょう。
しかし、貧血が進んで婦人科を受診し、巨大な子宮筋腫があると診断されたら?
きっと、医師は診察をする上で痛みはいつからひどかったのかを質問しているでしょうし、市販薬であっても、ロキソニンをどのくらい内服していたか聞くでしょう。
ロキソニンの内服頻度によって、症状を推測できるからです。
医療の観点からみると、その人の身体(病態)を把握するために必要な問診です。
もちろん、聞き取ったことが今後の治療に必要な情報であれば、カルテにも書きます。
問診の結果、実は3年前から生理痛と出血のひどかったことが判明したとします。
この女性が、この3年の間に生命保険に新規で加入していた場合、どうなるでしょうか?
本人は医療機関を受診していませんから、既往歴なしと申告するかもしれません。
しかし、そのとき既に子宮筋腫が進んでいたら?
入院給付金や手術給付金を請求しても、すんなりとはおりないでしょう。
もしかしたら、医師への面談を求めるかもしれません。
生命保険会社は、保険金や各種給付金の支払いに対して疑問な点があった場合、本人の許可を受けて(書面にきちんとサインします)担当医と面談をすることがあります。
医師は患者さんの担当医ではありますが、どちらの肩を持つこともしません。
治療に関することなら患者さんの意思を尊重しますが、お金に関することなので、中立の立場をとります。
ですから、質問されれば初診時の問診で聞き出した、「実は3年前から生理痛と出血がひどかった」と答えるでしょう。
そうなると、確かに病院を受診したのはつい最近のことですし、自分が病気だとは思っていなくても、告知義務違反と言われてしまうかもしれません。
告知義務違反と判断された場合は、入院給付金と手術給付金は支払われません。
女性は結構、鎮痛薬のお世話になることがあります。
生理痛もそうですし、頭痛でも使います。
鎮痛薬は解熱薬でもあるので、「ここ」という大事な仕事の時に熱が出てしまったりすると、その場しのぎではありますが、ロキソニンを飲んで仕事を乗り切ることもよくあります。
どのくらいの使用頻度で、生命保険会社が病的と判断するのかはわかりません。
しかし、<「プロペシア」も生命保険の加入の際には告知義務がある>の自由診療のプロペシアもそうですが、病気かわからないのに自分の身体のことを包み隠さずに保険会社に告知するというのは、少し抵抗がありますよね。
この心理的な抵抗が、どのくらい保険金や各種給付金の給付に絡んでくるのか・・・それはわかりません。
少なくとも、飲んでいる薬(保険診療での投薬含め)が不払いの材料にされてしまうこともあるという事実は、覚えておかなければなりません。
どんなところから「ケチ」が付けられ、保険金や各種給付金が不払いになるかわかりません。
こういったこともあるので、もしもの備えは生命保険だけに頼らないようにしておく必要がありますね。