「睡眠時無呼吸症候群」は、さまざまな合併症をもたらす


睡眠時無呼吸症候群って何が困るの?

睡眠時無呼吸症候群という病気、耳にしたことがあると思います。

一般的に知られている通り、夜間の睡眠中に無呼吸を呈しているために質の高い睡眠が得られず、日中ひどい眠気がおそって来たり集中力が低下してしまうものです。
医療機器メーカーのTEIJINによると、正確な定義は下の通りです。

『一晩(7時間)の睡眠中に30回以上の無呼吸(10秒以上の呼吸気流の停止)があり、そのいくつかはnon-REM期にも出現するものをSASと定義します。1時間あたりでは、無呼吸回数が5回以上(AI≧5)でSASとみなされます。』 
※SAS=睡眠時無呼吸症候群 AI=無呼吸指数

睡眠時無呼吸症候群は、りっぱな治療対象となる病気です。
なぜなら、これが重大な事故を起こすことになるからです。
では、どんな事故につながるのでしょうか?

冒頭でお伝えしたように、睡眠時無呼吸症候群は布団に入っている時間の割に夜間しっかり眠れないために、日中にひどい眠気がやってきます。
立っていていきなり眠ってしまうようなことはありませんが、集中力が欠けてボーっとすることはあります。

そんな状態で車に乗ると、どうなるでしょうか?
シートに座った状態で心地よい車の振動が加わると、ウトウト・・・となってしまうわけです。

危険作業は、車の運転だけではありません。
飛行機のフライトや、電車の運転もそうですね。

集中力の低下は、交通事故だけでなく産業事故にもつながります。
刃物を使っている工場のラインでは、指などの切断事故の可能性がありますし、金属加工をしている工場では、重度の熱傷を負う危険もあります。

実際、私の勤務先にもたくさんの患者さんが業務中の事故で運ばれて来ます。
冷凍マグロを解体する工場で指を落としてしまう事故で運ばれて来た人は1人や2人ではありませんし、缶詰工場で120度の熱湯を浴びて下半身大やけどを起こして1か月近い入院治療を必要としたケースもあります。
これらは、睡眠時無呼吸症候群でないにも関わらず発生している事故です。

もし睡眠時無呼吸症候群の患者さんがこれらの危険作業に従事していた場合、どのくらいの割合で事故が増加するのでしょうか?
TEIJINの調べによると、睡眠時無呼吸症候群による経済的損失は3.5兆円に及び、 「運転中の眠気」の経験割合は4倍(40.9%)、「居眠り運転」ではなんと5倍(28.2%)という調査結果も示されています。

SAS事故(TEIJIN 睡眠時無呼吸症候群が招く事件・事故より)

グラフで見ると、この差は歴然ですね。

2003年2月26日に、JR西日本の新幹線運転士が業務中に居眠りをした事故があります。
NHKのクローズアップ現代でも、突然の睡魔が事故を呼ぶ ~睡眠時無呼吸症候群~としてとりあげられました。

新幹線ですから、スピードは時速270キロ。
居眠り状態のままおよそ8分間走行して岡山駅で停止位置を誤ったことで、運転士の睡眠時無呼吸症候群が判明したのです。
270キロで脱線事故や衝突事故を起こしてしまったら、大惨事です。

また、実際に人身事故を起こして裁判となるケースもあります。
2010年4月に千葉県で起こった、乗用車同士の衝突事故を起こし男女6人が重軽傷を負った事故では、『睡眠時無呼吸症候群の影響で、注意義務を果たせない状態に陥った疑いを払しょくできない』として無罪となりました。
(参考:千葉日報 男性の無罪確定へ 地検が控訴断念 睡眠時無呼吸症候群で事故)

このケースでは睡眠時無呼吸症候群のため無罪となりましたが、病気なら無罪になるという証明ではありません。
有罪となるケースだってあります。
居眠り運転によって、人生が変わってしまうのです。

他にも睡眠時無呼吸症候群が関係しているとされる事故はたくさんあります。
こんなにあるなんて・・・調べてみて驚きました。
いくら自分が安全運転していても、いつ事故に巻き込まれてもおかしくないということですね。

特に運転に従事する場合には、患者個人だけではなく、多くの乗客を抱えています。
ですから、交通各社は突然意識消失して大事故に発展しそうな、睡眠時無呼吸症候群や狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などについてはかなり神経質になっています。

心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高い脂質異常症や糖尿病・心房細動は、健康診断である程度見つけることが可能です。
何かしらの項目で指摘された場合には、会社負担で精密検査を受けることもあります。

しかし、睡眠時無呼吸症候群を健康診断で特定することは難しく、事故を起こして初めて病気を発見するケースが多いのです。

睡眠時無呼吸症候群の検査と治療方法

健康診断では要受診(要精査)の項目がなくても、やたらと日中に眠気が来る・・・そんな場合は、重大な事故を起こしてしまう前に検査を受けてみることをお勧めします。

また、事故を起こす前に自ら受診するのは家族に夜中に鼾(いびき)が止まると言われた場合が多いので、家族に夜間の状態をたずねてみるのもよいでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の検査は、2つの段階があります。
自宅に機材を持ち帰って就寝時に装着し、翌日病院に提出してデータ解析をするアプノモニターと、入院による管理のもとでより精密に調べるポリソムノグラフィ―(PSG)です。
アプノモニターならばほぼ仕事に支障がありませんし、身体への侵襲(ダメージ)は一切かかりません。

そして、もしこれらの検査の結果で睡眠時無呼吸症候群にと診断を受けた場合は、治療を受けることになります。
程度にもよりますが、治療方法

  • マウスピース(かみ合わせを矯正することで顎をずらし、いびきや無呼吸の発生を防ぐ)
  • 外科治療(気道の狭い部分を手術で取り除く)
  • CPAP(就寝時に専用機器を装着する)

の3つで、多くの患者さんがCPAPを導入しています。

睡眠時無呼吸症候群は、舌根が落ちて気道を塞いでしまうことから起こることが多いため、
機械によって空気で圧をかけて強制的に換気し、無呼吸を防ぐものです。

SAS検査(徳洲会グループ  SASを治療し命を守る より)

睡眠時無呼吸症候群は肥満の中高年男性に多く、減量するだけで改善することもあります。
ただし、顎が小さいなどの骨格や呼吸中枢の問題だったりすることもあるので、太っている=自己管理が悪いせいともいいきれません。
痩せればいいという単純な問題ではないため、治療が終了することはほとんどありません。

ただ、実際は装着による違和感によって「続けられない」と自己中断してしまう患者さんが多いので、医療従事者としては悩むところです。
一方で、しっかり装着できると翌日の調子が「全然違う」と言う患者さんも多いのですけれど。

でも、基本的には終わりがないとなると、一生治療が続くことになりますね。
このような状態で生命保険に加入するときは、どのようになるのでしょうか?



睡眠時無呼吸症候群が簡単に生命保険に入れない理由は、合併症にあり!?

最近の研究により、重度の睡眠時無呼吸症候群を放置しておくと、脳卒中や心筋梗塞で死亡する率が高くなるとわかりました。

また、高血圧や糖尿病、認知症を悪化させることにもつながるとも言わ指摘され始めました。

高血圧は脳梗塞・脳出血の原因になりますし、心臓や腎臓への負担もかかります。
放置すると、腎不全や心不全につながります。
糖尿病は全身の血管がボロボロになる病気なので、3大合併症と呼ばれる腎症・網膜症・神経障害を始め、様々な病気を引き起こします。
感染症に弱いので、治療が思うようにいかないこともあります。

こうなると、もうどんな病気が起こってもおかしくありません

たかが睡眠不足で!?
なんて言えませんよね。

事実、疲れやすいとかやたら眠いと検査を受けてみたら睡眠時無呼吸症候群で、こんな危険性がありますと言われ、外来で茫然とする患者さんもいます。
全身の病気のリスクがあるということは、死亡保険・医療保険・就業不能(収入保障)保険・介護保険など、全ての保険商品に関係してきます。
生命保険会社からすると、かなりリスクの高い契約者となってしまいますね。

ですから、睡眠時無呼吸症候群と診断された場合にはしっかりと検査結果と治療内容を告知した上で、引き受け基準緩和型商品になってしまうことでしょう。
場合によっては、無制限型を提案されることもあるかもしれません。

ただ、必ずしも睡眠時無呼吸症候群の患者全員が別の病気を発症すると決まったわけではありません。
しっかり治療していれば防げる可能性も高いです。

ですから、治療を受けていると証明することで、多少条件が緩和されることもあるでしょう。
医師の診断書を求められることもあるかもしれませんし、個々の生命保険会社で実際に見積もりを出してみないことには、わかりませんね。

自分は運転を仕事にしていないからいいや・・・では済まされません。
いつ仕事上でどんな事務処理ミスをおかすかわからないし、私用で運転していて事故を起こして歩行者を巻き込んでしまうかもしれません。
そして、本来なら防げたはずの病気を抱えることになるかもしれません。

もし自覚症状がある場合、病名がつく前に生命保険に加入しておくべきか・・・悩みますよね?
ただ疲れやすくて・・・というだけで、病気の可能性を認識していたとどこまで追求されるのでしょうか?

これはなかなか難しいものなのですが、生命保険というのはもしものために加入するものです。
その“もしも”の事態に、“まさか”あてにしていた保険金や給付金を受け取ることができないなんてことになっては、加入する意味がありません。

確かに、毎月の生命保険料を安くするためには、引き受け基準緩和型商品は避けたいところ。
でも、「もしもの事態のまさか」を避けるためには、しっかりと受診して白黒つけてから全てを告知することをお勧めします。

毎月の保険料が数千円違うだけでも、10年もすれば何十万円の差になります。
しかし、あなたの大切な家族や名前も知らない誰かの大切な家族の命を守るためにも、心当たりのある方はまず検査を受けてみましょう。

現代人は、睡眠の足りない人が多いです。
睡眠時間そのものが少ない場合がほとんどですが、たっぷりと眠っても疲れが取れない場合や日中の眠気がひどい場合には、検査を受けてみてはいかがでしょうか?

ただし、睡眠時無呼吸症候群の検査機器は、取り扱いのない医療機関もあります。
受診の際には、一度問い合わせてから行くと無駄がないでしょう。