「 胃の不調(胃潰瘍・胃炎・胃カメラ)」で医療保険の元を取ることはできない

胃の病気と生命保険

胃潰瘍と言えばストレス?

胃潰瘍の原因でまず思い浮かぶのは、ストレスでしょうか。
確かに、精神的にかかる負担が身体的にも負担のかかることがあります。
しかし、実は私達のもっと身近なところに胃潰瘍の原因はあるのです。

頭痛、腰痛、生理痛に急な発熱。
これらの痛みや熱を抑えるために、皆さん結構気楽に解熱鎮痛薬を飲みます。
昔なら病院に行かないと処方してもらえなかった薬が、ドラッグストアでも買えるようになったことも理由の1つです。

その代表例が、ロキソニンではないでしょうか。
痛みにも熱にも効きますから、私も大変お世話になっています。
痛みさえとれればいつも通りの生活が送れるのなら、使いたくもなりますよね。

ロキソニンを飲めば楽になるのがわかっていて、家でずっと何らかの痛みをこらえて寝ているなんて嫌ですよね。
仮に仕事が休みだったとしても。
ですから、ロキソニンをストックしてある人って、結構多いのです。

しかし、ロキソニンを始めとする解熱鎮痛薬には、困った点があります。
それは、胃粘膜を荒らしてしまうということ。
たまに使う程度なら支障ありませんが、頭痛や腰痛といった慢性的な痛みのために毎日解熱鎮痛薬を飲むのが当たり前・・・となると、胃薬と一緒に飲まないと胃へのダメージが大きいのです。



慢性的な腰痛に、ロキソニンがもたらした結果

腰痛は、現代人を悩ませる身体の不調の一つです。
腰をかがめる作業の多い仕事や、脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニアで痛める人も大勢います。

また、加齢による変化で圧迫骨折を起こして腰痛を抱えている人も多いですね。
高齢社会になったからこそ、腰痛を抱えている高齢者もたくさんいるのです。

腰痛は、薬を飲んだからといってスパッと治るものではありません。
仮にブロック注射で一時的に痛みが和らいでも、ふとした動作でまたぶり返してしまうこともよくあります。
仕事柄腰に負担がかかる場合は、同じ仕事に従事している限り腰痛から解放されることはないでしょう。

整形外科を受診しても、出せる薬や行う治療は限られています。
痛み止めによる胃への影響がわかっているので、整形外科医はあまり痛み止めを処方しません。
そこで湿布を貼ったりして、できるだけ安静を勧められるのです。

湿布は1日1回貼るのが基準で、何枚もべたべた貼ったところでそれ以上の効果が得られるわけではありません。
何時間も待たされた上に湿布を貼っても痛みがなくならないからと、ドラッグストアで購入した解熱鎮痛薬をほぼ毎日、定期薬のように飲むようになってしまう人が出てくるのです。

私の遭遇したケースをご紹介しましょう。
ある日、40代の男性が黒い便が出ると内科を受診しました。
黒い便というと、胃酸の影響を受けているはずなので胃から出血しているのではないかと推測されます。

朝食を摂らずに来院していたので、そのまま胃カメラを行うことにしました。
胃潰瘍の場合はエコーやCTでは診断できません。
内視鏡室に案内してしばらく経って、私達外来スタッフはあの男性どうなっただろうと気にかかり、カメラの結果を電子カルテで確認しました。
すると、衝撃的な画像が・・・

胃壁からピューと血を噴いているカメラの写真がレポートに載っていたのです。
そして、その出血している周囲の粘膜が広範囲にわたり白くなっています。
本来胃壁はピンク色というか、肌色です。
白いというのは、胃潰瘍を起こしているということです。
そして、胃潰瘍で弱った胃壁から出血していたのです。

胃カメラで胃の様子を観察すると同時にクリップをかけてきたので、男性の出血は止まりました。
しかし荷物を取りに帰ることもできず、そのまま緊急入院となりました。

吹き上げるような出血を起こした胃潰瘍の原因となったのは、ロキソニンでした。
男性は職業柄、慢性的な腰痛に悩んでおり、ロキソニンを常用していたのです。
せめて胃薬と一緒に内服していたらよかったのですが、ロキソニンだけを毎日飲んでいたのですから、潰瘍を起こすのは当然です。
そして、胃潰瘍を発症してそこからの出血が腸を通って便と一緒に出てきたため、黒い便(タール便)が出たというわけです。

たかが痛み止めと思うなかれ

ドラッグストアでも購入可能になり、より一層身近になった解熱鎮痛薬ですが、とても助かる物であると同時に、使い方を誤るとこの男性のように胃潰瘍を起こしてしまいます。
男性の場合はクリップをかけて止血できましたが、これだけで済まない場合もあります。

アステラス製薬のなるほど病気ガイドで、胃潰瘍についての説明があります。
こちらを読んでいただけるとわかるように、胃潰瘍はその深達度によってⅠ度からⅣ度までの4段階に分類されます。

<胃潰瘍の進達度による分類>

Ⅰ度:粘膜層のみ
Ⅱ度:粘膜下層まで
Ⅲ度:筋層まで
Ⅳ度:漿膜まで

Ⅰ度の粘膜層のみの傷は「びらん」といい、よく言われる胃が荒れている状態です。
ただし、この状態では出血はしません。
びらんが更に進行してⅡ度以上の傷になると、表面がえぐれて「潰瘍」となります。
そして、更に深くまで進んでⅣ度以上に悪化すると、壁に穴が開く「穿孔」を起こしてしまうのです。

胃では、食べ物を消化するために胃酸が分泌されています。
胃穿孔を起こしてしまうと胃を覆っている腹膜が胃酸の影響を受け、猛烈な痛みを伴う腹膜炎を起こします。
腹膜炎は場合によってはショックを起こし命に関わることもありますので、緊急手術の適応です。

せっかく保険に加入しているのだから元を取らなきゃ損!?

この男性の場合はなんとか緊急手術の手前で食い止めることができましたが、本当は胃の痛みもあったはずです。
しかし、それでも腰痛の方が辛かったのでしょう。
仕事が忙しくて受診できなかったのかもしれません。

「最近胃が痛むな」くらいのところで受診をしていれば、内服薬での対応ロキソニンの弊害について医師から説明することもできました。
この時点なら外来通院で済みました。

仮に胃痛が続いてしまっていたとしても、胃薬で改善がなければ胃カメラを勧められたでしょう。
この時点もまだ、外来通院での胃カメラだけで済んだでしょう。

ところが更に状態が進んでしまったために、緊急胃カメラの挙句入院。
翌日には止血確認のためにもう一度胃カメラをして食事再開、食事がしっかり摂れることを確認した上で退院となったのです。
医療保険に加入していたなら、入院給付金の対象になったでしょう。

もし男性がタール便に気づいても受診せずにそのままロキソニンを内服し続けていたら、胃穿孔を起こしていたかもしれません。
そうなると緊急手術となりますから、医療保険で入院給付金に加えて手術給付金も対象になったかもしれません。

(注:確実に給付されるという保証はありません。
いかに不払いが多いかは、よくある生命保険のムダ03「保険金不払い条項が多すぎる」でお伝えしていますので、参考にしてくださいね。)

もし早期に発見して外来通院で終わってしまったら、あなたならどう思いますか?
「せっかく医療保険の保険料を毎月払っていたのに損をした」となる?
潰瘍からの出血を止めるための数日の入院の給付金なんて、大した額になりません。
それよりも、痛みを抱えて着の身着のまま緊急入院して、急に仕事に穴を空けて・・・という方が、ダメージは大きいのではないでしょうか?

胃穿孔を起こして緊急手術を受ければ、確かに医療保険で受け取れる給付金の総額は増えます。
でも、命の危険をおかして受け取ったところで、「得をした」と言えるのでしょうか?

せっかく生命保険に加入して苦しい家計から毎月保険料を支払っているのだから、「元を取りたい」という気もちが出るのは理解できます。
けれども、生命保険というのは緊急時の出費を手助けするものであって、それで儲けようとか思ってはいけないのです。
中には払込保険料に対し、受け取った給付金の方が高くなるという例(経験した実際の生命保険関連の事例05~「最低金額で最大限の保障をgetした男性」~)もありますが、これは極めて稀なケース。

日々健康で、生命保険のお世話にならずに済んでいることを有難いと思うべきなんですね。
だからこそ、どこまで元が取れるかわからないものにお金をかけるのかが難しいところでもあるのですけれど。