「『差額ベッド代≠個室代』の謎」~実際の生保事例26 ~

差額ベッド代と医療保険

「差額ベッド代=個室代」と思ったら、大間違い!

医療保険を検討するにあたって、日額いくらつけるか、どんな特約をつけるかといったことに頭を悩ませている人は、結構多いのではないでしょうか。
どんな保険に入ったらいい?
必要保障額って、いくらあれば安心?

今回は、入院費用の中でも保険のきかない全額自己負担となる差額ベッド代から、医療保険を考えていきたいと思います。

よく耳にする「差額ベッド代」とは、一体どんなものを指すのでしょうか?
簡単に言うと、入院する部屋に割り増しがつくことです。
ベッドそのものが高いとかいうことではないので、あしからず。

では気になる差額ベッド代の相場は、いくらでしょうか?

差額ベッド代
(ソニー損保 よくある質問 より)

この図は、「差額ベッド代とはいくらかかるのか」という質問に、ソニー損保が答えたものです。
平均は6129円となっていますね。

治療費とは別に入院1日あたり6000円と考えると、結構な金額です。
ベッド代、つまり部屋代だけで10日で6万円。
1か月入院したら18万円です。

しかし、私が注目して欲しいのは、この金額ではありません。
完全な個室(1人部屋)でなくても、3人部屋や4人部屋にも差額ベッド代が生じているということです。

「差額ベッド代=個室料金」
と思っている人が多いと思います。
間違いではありませんが、正しくもありません。
差額ベッド代には1人個室代も含まれますが、大」部屋なのに差額ベッド代が加算されるケースもあるんですね。

一般の人の感覚からすると、個室にするから割り増し料金がかかると思うでしょう?
確かに、本来4人入るはずの部屋を1人で使ったらその分の収益が減りますので、病院側は割り増し料金(差額)をいただきます。
しかし、割り増し料金をいただきたいのは、個室を選択するときだけではありません。

他にも、
【1】医療従事者の目が行き届く範囲にいてくれないと困る
【2】隔離が必要
という場合も、差額ベッド代が発生するのです。

【1】目の届く範囲にいてほしいというのは、例えば

  • 状態が不安定で、いつ急変してもおかしくない
  • 看護師の訪室する回数が頻回なので、遠くの部屋でまで行けない
  • モニターを装着する必要があるので、ナースステーションに電波の届く部屋でないと困る
  • 認知症によって転倒や転落、点滴やチューブ類を自己抜去する恐れがある
  • 認知症によって離院(病院から出ていってしまうこと)する恐れがある

患者さんの安全を確保するためにナースステーションの近くの部屋が必要、ということです。
病状ごとの配慮という面もあります。

数時間で亡くなってしまうかもしれないようながんの末期の患者さんのもとには、家族や親類がたくさんかけつけます。
そんな人の隣に軽症の患者さんがいて、面会に来た友達と楽しそうに話していたらどうでしょう?
お互いに気まずいですよね。

最近は認知症によって目を離せない患者さんが増えているため、治療のためというよりは危機管理的な意味合いで差額ベッド代を請求することが多くなりましたね。

ナースステーションの近くなら部屋の前を看護師が通る機会が多いので、危険行動を起こしていても早めに察知できます。
これが病棟の一番奥の部屋だった場合、その人の元へ行く目的がなければその部屋まで行きません。
訪室したときには既にベッドから転落していた・・・なんてことになりかねないのです。

そのため、安全確保のために差額ベッド代をいただいて、ナースステーションの近くの部屋に入ってもらいます。
ナースステーションの近くの部屋というのは、大部屋であっても目にかけてもらえる回数が増える特別室なのです。

隔離する方?される方?理由によって異なる差額ベッド代

次に、【2】隔離が必要な場合の差額ベッド代について考えていきましょう。
隔離とは、どんな状態の場合に必要となるのでしょうか?

  • 患者が感染症にかかっている
  • 患者が感染しやすい状態である
  • 24時間体制の処置が必要で、夜間の処置によって同室者の睡眠が妨げられる
  • 認知症によって、大声をあげたりする

こういった場合には他の患者さんと離れる必要があるため、隔離が必要となります。
しかし、その患者さんと他の患者さんのどちらを守るためかという理由によって、差額ベッド代がかかる場合とかからない場合が出てきます。

患者さん側が感染症(結核やインフルエンザ、ノロウイルスなど)に罹っている場合、感染を拡大させないために隔離します。
反対に、抗がん剤治療などで白血球が減少し、患者さんが極度に感染症に弱い「易感染状態」にある場合、その患者さんを守るために隔離が必要となります。

私が過去に検査入院をしたとき、実は感染者扱いで隔離をする必要があると言われました。
他の人を守るために、私を隔離するのです。

プライバシー確保のための個室とは違います。
感染者扱いで部屋の外に出られないため、トイレと洗面付きの個室になりました。
1泊入院だったのでシャワー室はなくても困りませんでしたが、検査当日の午前に入院し、翌朝午前に退院して24時間しか使わないのに、2日分の個室料金がかかると言われました。

1日1万円の個室を2日分で、計2万円。
払いたくはないけど、ここでごねても病院側にいい印象を持たれないし・・・と、諦めモードでいました。

事務方からの入院説明では個室料金のことも説明されていたのですが、なんと、主治医の先生が個室料金を免除にするようにと事務方に交渉してくれました。
おかげで私は、ビジネスホテルのような一室を使って悠々と(⁉)検査を受け、翌日無事に退院したのでした。

私のケースは、病院側としても2日分だけの対応だったからだと思います。
それに、私にかけられていた感染症疑いは結核だったので、本当に病院側としても徹底した隔離をしなくては困るということだったのでしょう。

後日、この結核疑いはただの疑いで終わり、結果的には感染者でもないのにタダで個室を使うことができて本当にラッキーでした。
このときの私はすでに医療保険も解約してしまっていたし、高額療養費も認められなかったので、とてもありがたい対応でした。

隔離する方かされる方か、隔離しなければならない理由によっても差額ベッド代が請求されないことがあります。
そのときの医師の判断によることもあります。
差額ベッド代がかかるかどうか・・・自分の命を預けている患者は、病院側に言われた通りにするしかないということを身をもって体験したのでした。



差額ベッド代は、医療機関によってまちまち

医療関係者である私も知らなかったのですが、医療機関によって差額ベッド代を請求するかどうかの基準は違います。
自費請求のものは、医療機関独自の基準を設けることができるんですね。

私が最初に就職したのは、公立病院でした。
そこでは、基本的に患者さんの希望による個室しか差額ベッド代はいただいていませんでした。
そういう「1人にしてほしい」という意味の個室は、ナースステーションの近くではなく、むしろ一番奥まったところに作られていました。

部屋の中にある設備と部屋の大きさによって、金額は違いました。
トイレと洗面所があるだけの個室は、1日あたり5000円。
シャワー室とソファセットも完備してある個室は、1日あたり25000円でした。
社会的に立場のある人や、どうしても付き添いを希望する家族がいる場合などに使用していました。

1度芸能人が手術目的で入院したことがあり、その時はこの部屋に数日間入院されていました。
芸能人夫妻だったし手術には家族の付き添いも必要ですから、家族の待機場所も兼ねて特別室の利用だったのです。

私たち庶民が普段の買い物の感覚で考えてしまうと1日で25000円は高いのですが、この金額は世間一般からすると良心的です。
私立の大学病院なら、同じような設備と広さで5万円以上かかるのが普通です。
立地も含め、田舎価格だと思います。

私はこの公立病院に、約10年お世話になりました。
ですから、10年看護師をしてきても、差額ベッド代を請求されて怒ったり困ったりする患者さんやご家族に接したことがありませんでした。

今の勤務先である民間の病院に転職してから、この差額ベッド代問題に直面するようになったのです。
民間ということもあって結構シビアに差額ベッド代を請求するので、当初はびっくりしました。

ナースステーションの近くの部屋に入ってもらう必要がある場合、入院前に説明をして本人・家族から差額ベッド代の了承を得る決まりになっています。
「ご理解いただけないのなら、当院での入院はご遠慮します」という意味を含んでいるわけです。

当然ですが、中には納得できない人もいます。
多くの場合がせめて数日・・・となだめてお願いするのですが、聞き入れない人も中にはいます。

当然といえば当然ですよね。
入院時には、何日入院するのかわかりません。
5万円と決まっていれば腹をくくれるかもしれませんが、入院している限りずっととなると、簡単に返事はできないと思います。

医療現場に勤務している私ですら、公立病院に勤務していたときは
「差額ベッド代なんて、個室を選択しなければいいのよね」
と思っていました。
全身管理や危機管理的に必要な個室なら、差額ベッド代は免除になると思っていたのです。

ですから、過去に私が加入していた医療保険は日額5000円でした。
差額ベッド代の平均を1日6000円とすると、毎日1000円不足しますね。
医療保険の多くの商品を日額10000円にしているのも、納得できるような気がします。

私自身はラッキーにも差額ベッド代を請求されることはなかったし、もし支払ったとしても1泊2日の検査入院2日分で済みました。
しかし、現実にはほぼ強制的に病院側から差額ベッド代のかかる部屋への入院を言い渡されることもあるのです。
私がもし自分の勤務先に入院していたら、確実に請求されましたね。

― 差額ベッド代は、自分が個室を希望しなくてもかかることがある ―
これは、私が転職して初めて目の当たりにした現実だったのです。

やたらと高額な保障をつけた生命保険に加入しても、保険料が高額になってしまいます。
日額5000円にして、超える分は預貯金でカバーすると腹をくくれば、保険料は抑えられます。
一方で、差額ベッド代まで保障範囲に入れておかないと、預貯金が少ないので心配・・・というのなら、保険料は高くなりますが安心は得られます。

もしあなたがこれから医療保険の加入を検討するのであれば、差額ベッド代を始めとした全額自己負担となる費用も、入院費用と一緒に請求されることを理解しておく必要があります。
その上で、本当に医療保険に加入するのか、日額いくらにするのか、どんな特約を付けるのか・・・といった具体的な内容を検討してくださいね(*^-^*)