「プロペシア」も生命保険(医療保険)の加入の際には告知義務がある

プロペシアとAGA

自由診療の薬を処方されていても、告知義務になりますか?

普段私達が医療機関を受診する際には、保険診療を受けていることがほとんど。

毎月1回、保険証を提出してくださいと、受付窓口から声をかけられるでしょう?
保険証を出して保険診療を受け、本来の金額の3割(高齢者は1割)の自己負担で済んでいるのです。

病院を受診する際には、保険診療以外にも、その人が使う保険や支払方法によって、いくつかの種類があります。

<病院の会計は意外にフクザツ?支払方法の種類>

保険診療(社会保険、国民健康保険)
自由診療報酬
労災保険
公務員災害保険
自賠責保険

などなど

3割の自己負担で済むのなら、何でも保険診療にしてもらいたいところですが、そうはいきません。
保険診療というのは、病気治療のためのものです。
美容目的で医療を受ける場合には保険診療ではなく、自由診療となり、全額自己負担しなくてはなりません。

また、海外で作られた新薬や、まだ効果が認められていない先進医療も自由診療となります。
がんの患者さんが受ける陽子線治療も、まだ保険適応されていない自由診療の一つです。

生命保険の加入を検討する際、自由診療については、どのようにしたらよいでしょうか?
まず、先進医療としての自由診療は、必ず告知しなくてはいけません。

どちらにせよ、先進医療を受ける前の段階として、保険診療で今の保険制度で適応されている範囲の検査・治療・投薬は受けているはずですので、保険会社へ告知する義務があります。

では、病気ではない自由診療なら、告知する必要はないのでしょうか。

今回のテーマは、この自由診療の中で処方されるプロペシアです。

もう一度、告知義務を確認しよう

プロペシアは、AGAと呼ばれる男性型脱毛症の薬です。

一時期はテレビのコマーシャルでも流れていたので、ご存知だと思います。
AGAは、成人男性によくみられる髪が薄くなる状態で、生え際や頭頂部の髪が薄くなってしまう症状です。
(AGAについては、MSDのAGA-newsをご覧ください)

薄毛は確かに気にはなりますが、命に関わるような病気ではないので、保険の適応されない自由診療になります。

AGA自体は病気ではありませんが、薬(プロペシア)を内服している場合、生命保険に新規加入する際に必要となる「告知義務」に該当するのでしょうか?

告知義務というのは、『契約者または被保険者は、過去の傷病歴(傷病名・治療期間等)や現在の健康状態・職業などについて、事実をありのまま告げなくてはいけない』というものです。

生命保険は日本人の罹患率や余命など、膨大なデータから一定の率で病気や亡くなる人を計算し、その計算に基づいて保険料を定めています。
皆から保険料を集め、その中から生命保険会社の経費などを抜いたお金から、保険金を出しています。

そのため、初めから健康状態の良くない人や危険度の高い職業に従事している人などが無条件に契約してしまうと、保険料負担の公平性が保たれなくなってしまいます。
保険会社が受け取った保険料に対して支払う金額の方が高くなり、保険会社の持ち出しとなってしまうのです。

そうなると、経営が行き詰ってしまいますね。
そのために、告知義務があるのです。
そして、告知義務に違反した契約者に対しては、ペナルティが科せられます。
よくある生命保険のムダ03「保険金不払い条項が多すぎる」で詳しくお伝えしていますので、参考にしていただけるとよいかと思います。)

では、この告知義務にAGA治療のためのプロペシアは含まれるのでしょうか?
自分の身体の問題や病気というものは、できれば人に隠しておきたいものです。
中でも、ED(勃起機能不全)やAGAの薬は、その度合いが高くなります。

ですから、告知することで加入条件が悪くなるかもしれないという金銭的な理由ではなくて、純粋に「黙っていたい」だけで書かない人も、実は大勢いるのではないかと思います。

あなたは、どう思いますか?
病気ではないから、告知しなくていい?
それとも、薬を飲んでいるのだから、告知すべき?
さあ、どうでしょうか。



自由診療でも、身体に影響する薬を内服しているという事実

AGAは、本人にとっては計り知れないほどのコンプレックスとなるものですが、病気とは認められませんし、命に関わるものでもありません。
しかし、AGAの治療のためにプロペシアを内服していると、薬のせいで病気になる可能性があるのです。

副作用ゼロの、夢の薬は存在しません。
症状に対してプラスに作用するのであれば、身体にとってマイナス方面に働いたって、おかしくないのです。

具体的には、プロペシアの場合、どのような副作用があるのでしょうか。
プロペシアの添付文書には、以下が挙げられています。

<プロペシアの副作用>

過敏症:瘙痒症、蕁麻疹、発疹、血管浮腫(口唇、舌、咽喉及び顔面腫脹を含む)
生殖器:睾丸痛、男性不妊症・精液の質低下(精子濃度減少、無精子症、精子運動性低下、精子形態異常等)、勃起機能不全、射精障害注、精液量減少
肝臓 :AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇、γ-GTP上昇
その他:乳房圧痛、乳房肥大、抑うつ症状、めまい

添付文書として記載されているだけでも、これだけあります。
事実、プロペシア内服によってEDになってしまい、「こんなハズではなかった」と泌尿器科を受診された患者さんもいました。

泌尿器がらみではもう一つ、添付文書には載っていませんが、PSAという前立腺癌の指標となる腫瘍マーカーが、下がってしまう問題もあります。

内服した状態でPSAが2の場合、本当は10かもしれません。
PSAの基準値は4未満とされていますので、10なら超えていますから精密検査が必要となりますが、2と出てしまうと基準範囲内に入ってしまうのです。

また、過敏症(アレルギー)と肝機能障害は、どの薬にも起こり得る副作用です。
食べ物のアレルギー同様、アレルギー反応を起こすもの(アレルゲン)は人それぞれ違うので、内服してみないとわかりません。

そして肝臓は、身体にとって害となるもの(薬を含め)を分解して代謝する場です。
薬の内服によって身体に負担がかかると、肝機能障害となってしまい、肝機能を示す数値が上がります。

プロペシアは自由診療の薬ですし、病気を治すための薬ではありません。
しかし、プロペシアが健康を害したり、場合によっては命を危険にさらすことにもなるのです。
自由診療の薬も、副作用というものがあるんですね。

プロペシア内服は、生命保険加入にどんな影響があるの?

ここまでお伝えしてきた、二つの事実。

  • AGAは本来、病気に含まれない
  • AGAに対する治療薬(プロペシア)によって、健康被害を受けることがある

これらが、生命保険にどう関係してくるか考えてみましょう。

私が今思いつく限りでは、3つの問題があるかと思います。
【1】AGAに触れず加入し、責任開始日以降にプロペシアを内服開始した場合。
【2】すでに内服していることを告知せず加入し、その後なんらかの健康被害が出て保険診療を受けた場合。
【3】告知して条件が悪くなる場合。

まず【1】ですが、AGAというのは突然発症するものではありません。
突然発症するのはストレスなどによる円形脱毛症で、こちらは病気という扱いなので保険診療の対象になりますし、女性でも子供でも発症します。

しかし、AGAはもともと髪質や毛髪量によってある程度予測できるものですし、「最近やばいかも・・・」という具合に、少しずつ前兆があるものです。
男親を見て、自分も将来そうなるのかもしれないと不安を抱く人も、多いですよね。

ですから、生命保険に加入した後で内服し始めると、アヤシイとなるわけです。
内服する予定だったのに、あえて生命保険会社が審査して引き受け可としてから始めたのではないか、と。
本人が全く意図していなかったとしても、故意だととられてしまいかねません。

そして【2】、プロペシアによってアレルギーや肝機能障害・腎機能障害が出て、本当に入院が必要となった場合はどうでしょうか?
もし前立腺癌が見つかって検査入院や手術が必要になった場合、どうなるでしょうか?

『告知せずに内服していた薬のせいで健康被害が出たのだから、告知義務違反である。』
『プロペシアの内服によってPSAの値が見かけ上低く出てしまった結果、前立腺癌を早期に発見できなかったので、告知義務違反である。』

保険会社の言い分としては、このようになるのではないでしょうか。
そうなると、保険金や各種給付金が不払いとなる可能性がありますね。

不払いになったり、契約解除というペナルティを受けてしまうと、今まで何のために保険料を支払ってきたのかわかりません。
故意であろうとなかろうと、保険会社に保険金や各種給付金を不払いにさせる理由、付け込まれる理由を与えるべきではありませんね。
こちらは何万、何十万、場合によっては何百万もの保険料を払っているのですから。

というわけで、私の個人的な意見としては、プロペシアを現在内服している人は必ず、多少保険料が上がろうとも、【3】の自己申告することをお勧めします。

もし【1】のように、加入後に内服を開始した場合は、「追加告知」しましょう。
こうすることで、一部の契約や特約について保障の対象から外される「部位不担保」や、保障の期間が最初の数年間はないという「免責期間」の条件がついたり、引き受け拒否となることもあります。

しかし、自分から追加して告知を申請することで悪意のないことがわかってもらえますし、もし様々な条件に不満なら、その時点で解約すればいいことですよね。
何年も払った後で一方的に契約を解除されたり、本当に緊急事態が発生して保険金や各種給付金が頼りというときに不払いにされるより、よっぽどマシ。

自由診療の薬だから、保険会社に言う必要はないよね?
知らなかったことにしておけばいいよね?

そう思っていたあなたは、少し甘いかもしれません。
いざというときのために生命保険に加入するのですから、必要な時に頼れない保険は無意味なのです。

最初から防ぐことのできること(告知義務違反)で不払いなんてことにならないよう、この記事を読んで心当たりがあるのなら、生命保険会社や代理店の担当者に確認してくださいね。