「風邪」は薬に頼らずに治すのが良い!


確実に保障を受けるために~告知のおさらいをしよう~

生命保険の加入を検討する際には、ついつい保障内容や毎月の保険料に気がいってしまいがち。
でも、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
それは、確実に「保障を受けられる」ことです。

生命保険会社の提示する保障内容は、対象となったらもらえますということであり、対象にならなければ受け取ることができません。
もしもの事態が起きて保険金や各種給付金を申請したとき、保険会社はその状態が支払い対象となるかどうか調査します。
そこで、無事に対象と認められたら期待していた保障が受けられる、というわけです。

ただ、ここでもめるのが告知義務違反
「加入したときには既に病気だったから、対象外です」
「正しく申告していなかったから、対象外です」
となってしまうことがあるのです。

私達が生命保険に加入する際には、正しく現時点での健康状態を告知する義務があります。
そして告知義務違反をすると、保険会社は契約を解除して保険金の支払いを拒否する権利があります。

告知義務
(公益財団法人 生命保険文化センター 
 契約申込みから契約成立までの流れと重要事項 より) 

では、実際にどこまでを保険加入時に伝えるべきなのでしょうか?
ここは、結構グレーゾーンが存在するので一概に言えません。
生理痛や胃痛で市販薬のお世話になっている人が、契約後に婦人科疾患や胃がんと診断された場合にはどうなるのでしょうか?
プライバシーの問題もありますよね。

私の知る限りでも、更年期障害と思っていたら狭心症だったというケース<「更年期障害」でも告知はしておくべき>もありました。
風邪などの一過性のものや、病気ではないけれど体質的なものまで、全てさらけ出す必要があるのでしょうか?

たかが風邪でも、告知義務に含まれますか?

ここからは、告知すべき内容についてもう少し踏み込んでいきたいと思います。

仮にあなたがのどの痛みと37度台の微熱・咳(痰)といった症状が出たとしましょう。
いわゆる風邪ですね。
寝込むほどではないのですが仕事に支障をきたしたくないので、あなたはクリニックで5日分の抗生剤と去痰薬を処方してもらいました。

しかし、5日間飲み切ったあとも、まだ咳が続きます。
そこであなたは5日後にもう一度同じクリニックを受診しました。
そこで今度は、咳を緩和するための吸入薬と、前回と同じ去痰剤を引き続き2週間分処方されました。

ここまで、トータル5日+14日=19日分の処方を受けています。
早めの治療と追加の薬が効いて、薬を飲み終わる頃には症状はぴたりと止まりました。
医療現場ではよくあることです。
このくらいの症状で早めに医療機関を受診して治すのは、賢明な選択と言えるでしょう。

一方で、このくらいだからこそ受診せずに治す、という人がいたとしましょう。
市販薬と栄養ドリンクで乗り切ったかもしれません。
その代わり、体調が回復するまでに1か月かかりました。

実はこれ、症状は同じでも生命保険の加入に際しては大きな違いです。

下の表は、明治安田生命の告知内容です。
ここでは一番対象となる保険商品の多いもので検討していきましょう。

安田生命告知
安田生命告知2

(明治安田生命 契約申込みにあたり告知をいただく内容について より)

過去の既往歴や病歴を聞かれたら、入院や長期間の通院をしたケースでいいのかな?と思いますよね。
表の2のウと3に注目してください。

『【表1】以外の病気やけがで、初診日から最終受診日までの期間が7日間以上にわたる医師の診察・検査・治療、あるいは通算で7日分以上の投薬をうけた 』
『最近3ヵ月以内に、医師の診察・検査・治療・投薬をうけたことがありますか』

たかが風邪です。
2回分の処方薬ですっきり治っています。
数か月もすれば、本人も忘れてしまうような出来事かもしれません。
でも、7日以上の処方を受けたことも、医療機関にかかったことも事実です。
つまり、告知すべき内容となるわけですね。

ところが、受診せずに自力で治した人の場合は、治るまでに1か月かかろうが告知すべき対象にはなりません

私達医療従事者からすると、自力で頑張ってこじらせるよりも早期治療をお勧めします。
その方が結果的に体のダメージは少なく済むし、重症化を防ぐことができるからです。

告知って、もっと重い病気を伝えるものというイメージを持っていませんでしたか?
実は、この記事を書いている私自身もこの告知内容に驚いています。
抗生剤は、最初から7日分処方することだってよくあります。
すると、たった1回の受診で告知義務を満たすことになるんですね。

風邪をきっかけに、もとからあった呼吸器疾患が悪化することもあります。
本人は自覚症状がなく、受診もしていないので診断されていないものの、長い喫煙歴があって肺気腫を患っている場合などがそうですね。

10年間病院にかかったことがない≠10年間病気をしたことがない
であり、イコールではありません。

肺気腫は、1度つぶれた肺胞(ガス交換を行うところ)が治ることはありません。
10年間も肺気腫を放置しておいたら、確実に病気は進行しています。

もともと肺気腫のある人がタバコを吸い続け、たかが風邪でもやけに咳が長引くなあと放置しておいた結果、呼吸不全を起こして入院なんてことになったら?
結果的に、生命保険会社は入院給付金や死亡保険金を支払うことになってしまうわけです。

生命保険文化センターの契約申込みから契約成立までの流れと重要事項にあるように、生命保険は『多数の人々が保険料を出しあって、相互に保障しあう制度』です。
私達医療関係者が現場で遭遇するケースは、実際に生命保険に加入する「多数の人々」の中のごく一部にすぎません。

だからこのような告知内容になっていて、最初からできるだけ健康状態の悪い人をはじくようなシステムになっているのだと思います。
これは当然のことなのだと思いますが、体にとっては受診しない方が得とは言い切れないのになぁ・・・というジレンマがありますね。



抗生剤を処方しない医師は名医!?~薬剤耐性の大問題~

ここからは少し生命保険と離れますが、近年問題になっている抗生物質についてお伝えしたいと思います。

あなたが過去に風邪で医療機関を受診したとき、処方された薬は下のどれかのパターンではありませんでしたか?
1.風邪薬+解熱鎮痛薬
2.抗生物質+去痰薬
3.抗生物質+去痰薬+解熱鎮痛薬

耳鼻科ならこれに、のどの炎症を抑える薬が追加されるかもしれません。
そしてあなたの満足度はおそらく、1<2<3ではないでしょうか。

若い世代が風邪でクリニックを受診する目的は、

  • 仕事に穴をあけないように
  • 学校(保育園・幼稚園)を休まなくて済むように

だと思います。

忙しいからこそ早く治したいと、時間を割いて医療機関にやってくるのです。
それなのに処方薬が上の1.風邪薬+解熱鎮痛薬だと、がっくりするのが本心ではないでしょうか。
実際に、抗生物質を患者さん側が求めてくることもあります。

しかし、風邪の原因となるウイルスや細菌は、名もないものを含め世の中にはいっぱいあります。
もちろん、重症化してしまうこともありますが、安静にしていれば治るものもあります。
そして風邪には、抗生物質が効かないものも多いのです。

これに対し、毎回2と3の対応を受けていたらどうなると思いますか?
抗生物質に、耐性が出てくるのです。
つまり、抗生物質が効かなくなるのです。
でも、現場の医師は患者の満足度を得るためや、あとで悪化したときの責任を問われないために処方しているのが実情です。

喘息と副鼻腔炎で治療中のある女性が、のどの痛みを起こしました。
このままいくと、「発熱→喘息と副鼻腔炎の悪化→喘息発作と頭重感で働けない」といういつもの流れになりそうです。
家事育児に加え仕事も忙しいので、悪い流れになる前に早めに治しておこうと思います。

そこで彼女は、抗生物質を処方してもらいます。
かかりつけの耳鼻科医師も悪い流れになるだろうことが予想されるため、彼女の対処はいつも3.抗生物質+去痰薬+解熱鎮痛薬でした。

そしてその状態を5年以上続けた彼女は、風邪をひくたびに難治性の中耳炎に悩まされ、鼓膜切開やチューブの留置が必要になりました。
実際に炎症を起こして水が溜まっているので、耳も聞こえません。
また抗生物質を内服します。
こうして、抗生物質のループにはまっていきました。

そんな生活を続けていた彼女は、ある日喘息が悪化して肺炎を起こします。
特殊なタイプの肺炎だったため、呼吸器科で入院による検査が必要になりました。
検査結果を見て、呆然とします。

あらゆる内服の抗生物質に対し、耐性菌がついていたのです。
最初は内服すればバシッと効いていたのに、年々ずるずると症状が長引いてたかが風邪から難治性の中耳炎を起こすことが増えたのは、抗生物質が効かなくなっていたせいと考えれば説明がつきます。

喘息という体質もあり、風邪(感染症に弱い。
弱いからこそ、早く治そうと治療する。
その行動が、年月を経て抗生物質の効かない体になってしまった・・・。

この抗生物質・抗菌薬に対する薬剤耐性は、近年問題になっています。
厚労省でも下のようなパンフレットを配布し、周知に励んでいます。

AMR対策
(厚労省 薬剤耐性(AMR)対策について より)

風邪のような初期症状でも、早期に治療をすることは大切です。
でも、安易に抗生物質に頼るのは危険、ということです。
ですから、風邪をひいたと受診したときに抗生物質を処方しない医師は、実はヤブ医者ではなくて、名医なのかもしれません。

この女性は30代という若さで既に多くの薬剤耐性がつき、耐性のついていない抗生物質は、あとは点滴によるものしかありません。
今後は持病の喘息が悪化したり肺炎を起こしても、抗生物質が使えないので内服治療で乗り切ることができないかもしれません。
点滴治療(入院)が必要になり、重症化して命を危険にさらす危険性も高くなります。

そして考えた末、彼女がとった選択は・・・「頑張らない」。
仕事優先の今までから180度転換し、体調が悪いときは休めるようにしたのです。
給料は激減しましたが、残業や休日出勤だけでなく勤務日数そのものを減らし、休養を「仕事」にしました。

毎月抗生物質を内服し、それでも悪化して難治性の中耳炎や肺炎を起こしていたのに、体を大事にする生活をたった1年送っただけで体調はみるみるうちに回復しました。
あんなに飲んでいた抗生物質を丸1年使用せず、喘息も中耳炎も副鼻腔炎も、すべての症状を最小限でコントロールすることができたのです。
抗生物質と同様に馴染みになっていたステロイドも、お世話にならずにすみました。

実は体にとって一番必要なことは早期内服ではなく、体調不良の早期自覚と早期安静だったのです。
もう気づいたかもしれませんね?
そう、これは私自身のことです・・・。

もしものときの備えとして生命保険を検討するのは、大切なことです。
でも、正しい知識を身に付けて体の声に耳を傾ける、自分で自分の体を守るということも、同じくらい大切なのです。

私の苦い経験を、あなたのこれからに活かしてもらえたら幸いです(*^-^*)