胃がんと大腸がん、健康診断の項目は大違い
健康診断には、いろいろな項目があります。
そして、セットで組まれている項目だけを受ける人もいれば、自分で希望してオプション項目を追加する人もいます。
胃がんの検査は、バリウムを飲んでレントゲン撮影をする胃透視もあれば、胃カメラもあります。
最近では、ヘリコバクターピロリが胃がんの発生に関与していることが明らかになったので、採血でピロリ菌の抗体を調べることもあります。
抗体があるということは、ピロリ菌に対して身体が反応したということになりますので、採血でピロリ菌抗体を指摘された場合は、胃カメラで直接中を見てくる必要があります。
そして、何か気になる所見があった場合は、場合によっては組織の一部をつまんでくる「生検」を行います。
胃がんの検査はこんなに種類があるのに対し、大腸がん検査は何を行うかご存じでしょうか?
検便だけです。
便潜血といって、便に血が混じっていないかを調べる検査です。
けれどもこの便潜血、精度が低いのです。
本当に大腸がんがあってがんからの出血があった場合でも、検査に提出した部分に付着していなければ陰性となってしまいます。
逆に、前日に生のユッケを食べたとか、便が硬くて排便時に出血したとか、痔があって出血したという場合、血液が混ざってしまうためがんではないのに陽性となります。
女性の場合は便秘がちで排便時に出血してしまったり、出産後に痔もちになってしまったりということは多いもの。
よほどの出血量でなければ生理用ナプキンを当てて対処できてしまうので、なかなか受診しません。
むしろナプキンを使う習慣のない男性の方が、出血をすると病院を受診しているのではないでしょうか。
こんな風に、唯一の大腸がんの検査項目である便潜血ですら、陽性となっても「どうせ痔でしょ」と再検査を受けない人が大勢いるのです。
痔の人ほど大腸の検査を、そして痔の治療を
痔で一番怖いのは、痔そのものよりも大腸がんの見落としです。
健康診断では便潜血という簡単な検査しかないため、それだけに頼っていると痔のある人は見逃されやすいのです。
大腸カメラは、胃カメラに比べるとハードルがものすごく上がります。
まず、大腸カメラには前処置という便を出す作業が必要になります。
胃は食事を摂らなければ空っぽになりますが、大腸は便の通り道ですから絶食にしただけでは空になりません。
しかも、便の塊を出すだけでは足りません。
大腸の壁にこびりついた便まで取り除かない限り、カメラを入れても見えるのは便だけということになり、何の意味もなしません。
ですから、大腸カメラの前には必ず大量の水の下剤を飲んで、きれいさっぱり洗い流す必要があります。
医療機関によって前処置の方法は異なりますが、前の日から検査食に切り替えた上で下剤を飲む場合もあります。
また、大腸は曲がり角がありますので、カメラが通過するときにかなり痛みます。
鎮静をかけて眠った状態で行う医療機関もありますが、鎮静なしに行う医療機関もあります。
どちらがいいとは言えませんが、鎮静をかけたら楽に検査を受けられる分、検査後にリカバリー室などで休む必要があります。
こんな具合に、大腸カメラには胃カメラよりもかなり高いハードルがあります。
それでも、痔のある人は健康診断の便潜血の結果を問わず、大腸カメラを受けることをお勧めします。
やって損することはありませんが、やらなくて後悔することはあります。
恥ずかしいといっても、カメラ室のスタッフにとっては毎日のことですから、点滴を行うのと同じようなものです。
検査用の使い捨ての下着を使用することが多いので、露出するのは男女ともに肛門部分だけで済みます。
下剤の内服も、医療機関によっては全て自宅に持ち帰ってよいところもあります。
恥ずかしい・面倒というだけで、大腸がんを見逃したくはありませんよね。
たかが痔でしょ?
痔のせいで便潜血陽性になっただけでしょ?
そう思いたい気持ちもわかりますが、大腸がんは30代でも珍しいものではありません。
早期なら、検査したと同時に内視鏡で取り切って治療完了!ということもあります。
本当に痔?それとも癌?自分ではわかりません
痔は正式には痔核と言い、肛門付近の静脈に高い圧がかかることによって膨らんで発生するものを言いますが、実は種類があります。
<痔にも種類がある>
- 外痔核
- 血栓性外痔核
- 内痔核
- 切れ痔
一番わかりやすいのは、排便時にポコッと出てくる外痔核。
出て来たものをそのまま押し込めばよいのですが、放置するとうっ血して血液の塊(血栓)ができて、血栓性外痔核になることがあります。
こうなると、痛みがひどくて座ることすらできなくなります。
また、中にできた痔(内痔核)は痛みがないのに出血することがあり、自分ではなかなか気づくことはできません。
最後の切れ痔は、便の塊が硬くて、肛門を通過するさいに切れて出血するもので、発生のメカニズムは少し違います。
痔のある人がもし排便時に出血したとしたら、それは必ず痔からの出血と思ってよいのでしょうか?
痔からの出血のことが多いでしょうけれど、大腸がんと痔の両方を抱えている可能性もありますね。
では、その区別はどうしたらよいのでしょうか?
残念ながら、自分ではわかりません。
痔の有無についてはお尻から肛門鏡という器具を挿入すれば診ることが可能ですが、痔の奥に大腸がんがあるかどうかまでは、わかりません。
小さながんでは、CTやエコーの画像検査ではわかりません。
大腸がんの有無をしっかり調べようとなると、大腸カメラしかないのです。
痔は生活習慣病という事実
あまり知られていませんが、痔というのは出産によってできた場合を除き、生活習慣の積み重ねによってできるものです。
では、どのような生活習慣が痔を発生・悪化させるのでしょうか。
<痔のできやすい生活習慣>
- 立ちっぱなし、座りっぱなし
- トイレに座っている時間が長い
- 便が硬い
- お酒をよく飲む
- 冷え性(シャワーだけで、湯船につからない)
- 重いものをよく持つ
あなたは、トイレに本や新聞を持ち込んでいませんか?
これ、お尻にとっては悪い習慣なのです。
トイレというのは、座るだけでお尻に圧がかかる姿勢になります。
いきんでいなくても5分座っているだけで、お尻に高い圧がかかってしまうのです。
また、血流が悪くなることでも痔になってしまうので、年中シャワー派で湯船に入らない人や冷え症の人もなりやすいと言われています。
手術を受ける・受けないはともかくとして、まずはこれらの習慣を改善する必要がありますね。
同じ痔の治療でも、術式が違うと保険金が下りないケースも
痔の人が受診をすると、たいていは座薬と内服薬が処方されて終わります。
どうしても出血がひどくて困るという場合には、手術を行うことがあります。
最近では日帰りで行うクリニックもあるので、痔で困っている方は思い切って手術を受けることをお勧めします。
ただし、お尻の処置になりますので、処置後は座るのが痛かったり出血をすることがあります。
いくら日帰り手術でも、翌日や翌々日は術後の経過を診察する必要があります。
何よりも重要なのは、痔のできてしまう生活習慣を直さなければ、手術を受けても再発してしまうことです。
そこで気になるのは、休みがとれるか・通院できるかという時間的問題に加え、費用面でしょう。
あなたの今加入している生命保険は、手術給付金がありますか?
あったらラッキーですね♪
…とは一概に言えないのが、痔の手術の難しいところです。
YOMIURI ONLINEで痔の手術にはどんな種類がある?という質問に、佐原力三郎 社会保険中央総合病院 副院長・大腸肛門病センター長が返答しています。
痔の手術にはいくつかの種類があり、昔からあるものと比較的新しいものがあります。
肛門科と掲げている外科のクリニックでも、最新の治療まで採用しているとは限りません。
保険商品や術式によって違いますが、手術給付金で手術を受けようと思っていると、痛い目に合うかもしれません。
例えば、痔核結紮(けっさつ)切除術なら手術給付金がおりても、ALTA療法(ジオン注射)では認められないというケースがあります。
保険会社の職員に先に「今度痔の手術受けるのですが」と質問して手術給付金がおりることを確認したとしても、術後に「この術式では対象にならない」と却下されてしまうことも現実にあるのです。
術式を決めるのは医師なので、生命保険でおりる手術にしてくれということは事実上不可能です。
痔の手術を受けるつもりで生命保険に加入していたわけではないでしょうから、もらえたらラッキー、もらえなかったら残念と割り切るくらいのつもりがよいでしょう。
たかが痔、されど痔です。
まずは生活習慣を正し、痔の治療を受けてからできるだけ大腸カメラも加えた健康診断を受ける。
それが、自分を守り、家族を守る道となるのです。
そして、手術給付金については思わぬ落とし穴があるので、くれぐれも期待しすぎないようにしましょう。