「おひとり様は、誰に遺して何を頼る?」~実際の生保険例13~


兄弟には渡したくありません!

ファイナンシャルプランナーの家計診断、最近いろいろなところで見かけると思いませんか?
ネットや雑誌、書籍で家計のお悩み相談系のものがここ数年、急激に増えたように思います。

ファイナンシャルプランナーという資格が認知度を増したことや、一向によくならない景気に、家計管理へ興味を持つ人が増えてきたことの表れでしょう。
私もそんな1人です。

いろいろな方の書籍を読んでいますが、中でも1つ考えさせられたことがあったので、ご紹介したいと思います。
藤川太さんの「年収が上がらなくてもお金が増える生き方」の中で、1人の相談者さんが相談した事例のうちの一つです。

49歳の独身男性が、50歳を前に自分の健康や将来のことを考え、民間の介護保険を検討しているがどうでしょうと藤川さんに相談しました。
この方の両親は既に他界しており、身内は兄だけ。
そこで、自分が高齢になったときのことが心配になったようですね。

民間の介護保険は、死亡保障とセットになっている商品がほとんどとのこと。
生命保険の死亡保険金の受取人は、二親等以内と決まっています。
二親等以内というのは、配偶者・祖父母・父母・兄弟姉妹・子・孫を意味します。
配偶者も両親もいないこの男性の場合、兄だけということになります。

ところが男性は、兄を受取人にはしたくないといいます。
親の遺産相続の際に仲違いをしたそうで、自分がお金を払ってきた保険を兄には渡したくないのだとか。

昨今増えているおひとり様。
高学歴・高収入でも、身内が誰もいないとなると頼るべきは生命保険、となるわけですね。
おひとり様ではないけれど、やはりシングルペアレントの道を進む私も、将来の不安については他人事とは思えません。

結論から申しますと、藤川さんはこの男性が検討している介護保険の死亡保障は100万円程度なので、「その程度なら、万一のときにも兄に渡したっていいではないですか」と答えています。
相談者はしぶしぶ納得しました・・・というところで、ページはくくられていました。

おひとり様が一番頼りになるのは、果たして生命保険なのか?

さてここで、私が何を投げかけたいかといいますと、

おひとり様は(家族のいる人よりも)、
ライフプラン・マネープラン
もしものときに頼りにできるもの
をよく考えるべき、ということです。

昨今、この相談者の男性のように、おひとり様の上に兄弟とも疎遠・絶縁状態にある人が増えてきました。
元気なときには問題ありません。
困るのは、病気になったときです。

まず、身の周りの世話をしてくれる人がいません。
ごはんを食べたくても、買い物に行って調理してくれる人がいません。
それまでコンビニ弁当や外食で済ませていたとしても、病気のときには買い物にも行けないし、調子の悪いときにコンビニ弁当を食べられるでしょうか?

洗たくものは溜まってしまうし、ようやくお風呂に入る気力・体力ができても、まずはお風呂場を洗うところから始めなくてはなりません。
風邪やインフルエンザくらいなら数日で良くなりますから、1人でもなんとか乗り切ることもできるでしょうけれど、長期になると厳しいですね。
何といっても、弱ったときには独り身の寂しさを感じることでしょう。

人付き合いの広い人や人望の厚い人なら、職場の人が駆けつけてくれたり、最低限の買い物くらいなら頼めるかもしれません。
しかし、兄弟仲の悪い人は、兄弟だけでなくて本当に誰とも人付き合いのない人が多いように感じます。
今まで自由気ままに生きてきたせいで、誰も近寄らないということでしょうか。

病状が深刻で入院加療が必要となった場合、自宅療養のときよりも一層困ることになります。
なぜかというと、お金と緊急連絡先の問題があるからです。

私が病院勤務をしていて最近よく困ってしまうのが、

  • 入院の申込書(申請書)に連帯保証人が書けない
  • 緊急連絡先が書けない

というケースです。

本人が既に高齢な上に誰も身よりがいないという場合は、ケアマネージャーを通して成年後見人を探してもらい、全てを委託するということも多くなりました。
しかし、先ほど出てきたシングル男性のように、「今はしっかりしている」という人が使う制度ではありません。

結局、なんとか本人から疎遠だろうと絶縁状態だろうと、親族を聞き出して入院費用の支払いや、亡くなったときには御遺体の引き取りに来てもらうことがほとんどです。
縁を切っても血は切れない、ということですね。

それすらもいない本当に天涯孤独な人のために、入院の保証人から葬儀・納骨まで全てを生前の契約のもとで行う民間会社も出て来ました。
本当に、このような会社が自分を助けてくれる存在となるのでしょうか?
それだけ需要があるということでしょうけれど、経営破たんした会社も実際にありました。

このような身内のいない症例に合うたびに、「もしものときには頼むよ」と言えるような人間関係は維持しておくべきだと痛感します。
確かに、アルコール中毒や薬物中毒・DVなど問題のある人とは離れるべきときもあります。
しかし、上でお伝えした男性のように、親の遺産がらみや実際はそこまでの事情がないのにこじれている人間関係が多いのです。

生命保険はもしものときに何千万・何億という保険金で、遺された家族を救ってくれます。
お金がなくては生活も治療費も払えませんから、老後やもしものときのマネープランを考えて備えることは大切です。
某不動産会社の社長(経験した実際の生命保険関連の事例04~「脳出血で億を手に入れた会社社長」~)は自身が脳出血になったことで、何億もの保険金を受け取ることができました。

けれども、おひとり様は生命保険を過信しすぎてはいけないと思うのです。
生命保険というのはお金で解決できる問題にしか対処できませんから、駆けつけてくれたり現実問題として身柄の引き受けに応じたり、もろもろの書類にサインをすることはできないのです。
ましてや、病気を抱えて不安な思いを受け止めてくれたり、相談にのったりという心のケアはしてくれないのです。

生命保険は命綱、とこれまで随所でお伝えしてきました。
確かにそうです。
でも、本当に頼りになるのはやはり「人」ではないでしょうか。
血がつながっていようと、いまいと。

「生命保険に加入していれば、もしもの備えは完璧なのか?」
生命保険にまつわる家計相談から、「本当に頼れるものとは何か」考えさせられたのでした。