「がん」に備える手段の一つ、生命保険


小林麻央さんが伝え続けた、がん患者のリアル

2017年6月22日、歌舞伎役者市川海老蔵さんの妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが、乳癌のため亡くなりました。
34歳という若さでした。

2014年に乳癌を告知されたという小林麻央さんは、その闘病生活を赤裸々にKOKOROというオフィシャルブログでつづっていました。
乳腺外来にも関わりのある私は、亡くなるまでそのブログを読むことはありませんでした。
見てしまうと、このあとどのような経過をたどるかが予想できてしまうような気がして。

麻央さん死去の報道は、病院のロビーにあるテレビで流れているのを通りすがりに観て知りました。
そして、ようやくブログを読むことができました。

最後の記事は、「オレンジ」。
酸素カヌラを着けて、在宅酸素療法を受けていたことがわかりました。
報道に出てくる、結婚会見のときの麻央さんとは違って大分痩せこけています。
でも、目は生きているなあと感じました。

全てに目を通したわけではないですが、浮腫でぱんぱんになった下肢も公開しています。
子供との関わりも、家族のサポートも。

1日でも長く生きていて欲しいと思う反面、24時間の在宅の看病は家族を疲弊させます。
仮に費用を全額負担してヘルパーなどにお願いして家を空けた場合でも、(その間にもし亡くなったら?)という不安が常につきまといます。
結局、家族もほぼ24時間の付き添いをして、どちらが病人かわからなくなってしまうこともあるのです。

がんの家族を自宅で支えることは、とても大変なことです。
ただ寝ているだけではありませんから、食事だけではありません。
トイレに入浴、着替えも介助が必要です。

在宅看護が難しいのは、マンパワーの問題だけではありません。
自宅で人が亡くなった場合は、往診してくれる医師を呼んで死亡確認をしてもらう必要があります。
(亡くなってから救急車を要請しても不審死を視野に入れて警察に連絡され、場合によっては司法解剖が必要になることもあります。)
そのように、いつ最後の時を迎えるかも考えて準備しなくてはなりません。

仮に在宅の道を選んでも、麻央さんのように亡くなる瞬間を家族が看取るのは奇跡に近いことです。
家族にもそれぞれの生活がありますし、睡眠をとらなければなりません。
本当に見守られて、最後に麻央さんが「愛してる」と言って旅だったのは、奇跡ではないかと思います。

麻央さんはブログを通じて、がん末期の患者のリアルを発信してくれました。
乳癌の患者さんの全てが同じような経過をたどるのではないので誤解しないでいただきたい面もありますが、がんという病気を若い人も身近に考える機会を与えてくれたと思います。

がん患者の在宅医療にかかるお金の話

製薬会社のイーライリリーから独立したサイトとなった、キャンサーネットジャパンここまでできる「がんの在宅医療」で、がんを自宅で支えるための具体的な制度が載せられています。

この記事に勇気づけられる方もいらっしゃるでしょうけれど、現実はなかなか制度を活用することは難しい。
これが、高齢者の介護とがんの在宅医療との違いです。

まず、大前提となる在宅医療を支えてくれる医療スタッフが、そう簡単には見つかりません。
往診は1時間あたりに診察できる患者数が減りますから、なかなか乗り出そうとしてくれる医師が少ないのです。
更に、医師の訪問よりももっと細かいケアを担当する看護師は、かなりの数をそろえなくては24時間の対応ができません。
こういった意味でも、誰でも在宅医療が受けられる環境にはないのです。

お金の話にうつりましょう。
がんの末期患者の在宅医療は、基本的に医療保険しか使えません。
40歳を超えるとがんの末期患者も介護保険によるサービスが受けられますが、がんの末期の患者さんに介護申請を受ける時間的余裕はありません。
ある日急に立てなくなってそこから日々悪化していくので、制度上対象であったとしても、がんで介護保険を利用できる人はごく限られた人だけでしょう。

自力で立てなくなって最初に困るのが、トイレです。
トイレに行けなくなった時点で、在宅医療希望だった家族がギブアップして入院に切り替わることがよくあります。

麻央さんは34歳という若さだったので、介護保険は使えません。
介護保険の適応外なので、ヘルパーを頼んだり、民間の訪問入浴サービスを利用したり、ポータブルトイレを使用した場合なども全て自費となります(実際に利用したかどうかはわかりません)。
お金を出さない(出せない)場合は、全て家族が行うことになります。

また、医療にかかる費用は保険が適応されますが、麻央さんは保険適応外の民間医療も行っていたということで、それらは全額自己負担です。
保険適応の治療でも高額なものはあります。
薬の単価自体が高ければ、3割負担だって自己負担金額は高くなります。

麻央さんの場合は藁にもすがるつもりで、あらゆるものを試したようです。
総額は公表されていませんが、何千万にも及ぶとか。
あなたの身内が末期のがんだと診断されたら、どこまでの医療を受けさせてあげられるでしょうか?
果たして、麻央さんと同じように在宅医療という道を選ぶことができるでしょうか?

がんの先進医療、あなたならどうする?

国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計によると、2014年にがんで死亡した人は368,103例。
ピンとこないかもしれませんが、少なくとも私の住む市と隣の市の人口を合わせた数よりも多い人数です。

また、この数はがんで亡くなった数の統計ですから、がんと診断されて今も治療を続けている人達の数は含まれていません。
同ページの最新がん統計によると、生涯でがんに罹患する確率は、男性63%(2人に1人)、女性47%(2人に1人)と出ています。

2人に1人はがんの時代・・・。
しかし、必ずしもがんで亡くなるとは限りません。
早期発見によって内視鏡下で切除してそれで終わり!という人もいます。

もしあなたのパートナーががんと診断されたら、あなたはどこまでの治療を受けさせてあげられるでしょうか?
あなた自身がその状況になったら、どこまでを望みますか?

まだ残された治療法があると医師から提案された場合、どうしますか?
ここで、生命保険を検討する際に必ず出てくる「先進医療」についてお伝えしておこうと思います。

厚労省の先進医療の概要についてによると、

『先進医療は、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。』 

つまり、民間療法と違って一定の効果があることはわかっているけれど、保険診療は認められない高額な医療ですよ、ということです。

例えば、陽子線治療はがんに対する放射線治療のうちの一つで、先進医療に指定されている治療です。
水素を利用した陽子線をがんの場所に合わせてピンポイントで照射できるため、従来の放射線治療よりも確実で、副作用の少ない治療と言われています。
ところが、陽子線には何百万という費用がかかります。

もし私がなんらかのがんと診断され、陽子線治療が適応だと言われたらどうすべきでしょうか。
陽子線治療を受けることで、完治するかもしれません。
逆に、治療成果が思うように上がらないまま、治療費だけかかるかもしれません。

もし治療が成功して社会復帰できるという保証があるのなら、数百万(おおよそ300万円ほど)の出費も受けるでしょう。
しかし、その保障はどこにもありません。
ほんの少し延命するためだけに数百万かかるのなら、遺された子供のこれからの生活費・学費にかけるべきだとも考えられます。

厚労省は、ホームページ内で先進医療を実施している医療機関の一覧も載せています。
残念ながら、私の住む地域には陽子線治療を受けられる医療機関がありません。
一番近くても片道3時間はかかります。
そんなところへ、病人が通院することは現実的ではありません。

ですから、私は医療保険に加入しているときも、先進医療は保障につけませんでした。
もし陽子線治療が適応になったとしても、現金で支払う余力と自分で通院できる体力がなければ受けないつもりです。

どのくらいの備えをしてどこまでの治療を受けるか、自分の軸で決めておく

小林麻央さんの在宅医療、在宅医療をめぐる制度、最後に先進医療とがん治療にかかるお金と、がんに関することについてお伝えしてきました。
生命保険のがん保険や医療保険、介護保険、高額療養費など、医療を支えるものはいくつもありますが、残念ながらどれも適応にならない、補助を受けられないということがあります。
それは、小林麻央さんのように年齢だったり、陽子線のような先進医療だったりします。

よくある生命保険のムダ05「公的な社会保障を知らない」で、もしものときのお金をどうするかという質問を投げかけました。

<家庭が大ピンチ‼ どうやって対処する?>

【1】自分の貯蓄で乗り切るさ。
【2】生命保険で備えてあるから、大丈夫。
【3】公的社会保障があるから、なんとかなると思う。
【4】考えていない(考えたくない)
【5】国がなんとかしてくれるんじゃない?

記事内でお伝えした通り、私は基本【1】~【3】です。
しかし、どうしようもなくなったら【5】、そしてある程度のところまで予想したらあとは【4】のスタンスです。
だって、考えたって仕方のないこともあるのですから。

医療に関る支出の全てを、貯蓄で賄う必要はありません。
しかし、全てが社会保障の範囲に収まるとは限りません。
もしがんと診断されたときにがん診断給付金が入ればとても心強いですが、先進医療や代替医療の金額には足りないでしょうし、何らかの理由で不払いとなるかもしれません。

自分がどんな病気に、いつかかるかはわかりません。
ですが、もし今なったらどこまでの治療を受けるか・・・というくらいは、考えておいてよいのかなと思います。
そうでないと、いざ病気になった場合には、とにかく医師が提案する全ての治療を受けなくてはならないと思うようになってしまいます。

医師は情報を提供する義務がありますから、経済状況や家族背景を問わず、存在する選択肢を全て説明します。
しかし、治療法が存在することとその治療を受けることは違うんですね。

悲しいことではありますが、やはり時間とお金、マンパワーは個人で違います。
人生の終末でさえ、これらによって選択肢が変わってくるのです。
(皆平等ではないという現実がみえますね)
しかし、備えをしておくことで選択肢の幅を広げられるなら、できるだけの備えはしておきたいとも思います。

もしもの備えをしつつ、今の生活も大切にしたい。
子供に将来かかる学費も貯めたい。
お金をどこにどう使うか、どこまでの医療を受けるか・・・それは、人生の最後までつきまとう問題なのですね。
その選択は報道や周囲に流されることなく、自分の価値観、「自分軸」で決めて欲しいと思います。