「親知らず」もしものための生命保険(医療保険)


親知らずを抱えていると、厄介なワケ

突然ですが、あなたは親知らず、ありますか?
私は4本すべてそろっています。

親知らずで悩んでいる人は、大勢います。
親知らずって、そもそも何でしょうか?

親知らずは、前歯の真ん中から数えて8番目の大臼歯のことをいいます。
通常は18~22歳頃に出てきますが、まれに30~40歳頃に出てくることもあります。 (親が亡くなってから生えるという由来になっています。)

さて、この親知らず、現代人にとっては厄介な歯なんですね。
なぜかというと、昔と違って、今の若い世代は顎の細い人が多いからです。
そして、歯1本1本の大きさは昔と変わらないのに、顎だけが細くなってしまったのです。

顎が細くなると、最後に生えてくる親知らずの分のスペースが十分にありません。
そこで、親知らずは四苦八苦しながら(?)外に出てくることになります。
そのため、他の歯に比べて真っ直ぐ生えてくることが難しく、歯磨きもしにくい。
結果として、虫歯になりやすいと言われています。

親知らずを抱えていると厄介な理由は、他にもあります。

<何が困るの?親知らず>

  • 真っ直ぐ生えない
  • 生えてくるときに痛みが出る
  • うまく歯が磨けない
  • 虫歯になる
  • 口臭の原因になる
  • 歯肉にかぶさるので、歯肉炎になる
  • 歯槽膿漏になる
  • 噛み合わせが悪く、額関節症になる

これらの問題があるため、親知らずは抜いてしまうことが多いですね。
でも、他の歯と違って親知らずは、あるとじゃまだから「さあ抜こう!」と思っても簡単に抜けないことがあります。

場合によっては総合病院の口腔外科で抜歯術を行うか、入院して同様に手術を行うことになります。
総合病院における抜歯もたいていは口腔外科の診察室で行いますが、全身麻酔が必要な場合などは手術室で行います。

親知らずを抜くのに入院するのは、ヘタレですか?

親知らずを抜くのに入院?手術室!?
大げさかと思うかもしれませんね。
私も新米看護師だった当時はびっくりしました。
「たかが親知らず1本抜くのに、入院するの!?」って。

これには、れっきとした理由があるんですよ。
痛いのが嫌だから入院させてくださいとか、怖いから全身麻酔かけてくださいとか、そんな理由ではないんです。
そして、生命保険を扱う当サイトで今回親知らずを扱うのも、理由があるんですよ。

なぜ、たった1本の親知らずを抜くためだけに、入院が必要なのでしょうか?
それは、「リスクの高い患者」の場合です。
ヘタレだから、ではないですよ~。

ちなみに、少数ではありますが、本当に小心者であるが故に全身麻酔という人もいます。
おとなしくしていてくれないと、抜けるものも抜けなくなりますし、危険ですから。
歯医者って、平気な人はいても好きな人はいないので、仕方ないのかもしれませんねぇ。

では、どんな人が「リスクの高い患者」で、口腔外科での抜歯適応があるのでしょうか?

<抜歯のリスクが高い人って、どんな人?>

  • 親知らずが横向きに生えている
  • 親知らずの上に骨がかぶさってしまっている
  • 親知らずが神経にからみついている
  • 不整脈がある
  • 心臓弁膜症や先天性心疾患がある
  • 抗凝固薬を内服している
  • その他基礎疾患がある(感染に弱い、ステロイドを長期に内服しているなど)

この中で上の3つは、親知らずそのものの形状というか、生え方の問題ですね。
抜く時の手技が難しいため、さくっと抜いて終わりではなく、何らかの手を加えないと抜けない場合です。
これらの場合は口腔外科での抜歯を勧められますが、必ずしも入院適応にはなりません。

口腔外科を紹介され、更に入院して抜歯するのは、残りの4つの理由がある人です。

歯と心臓の関係は、意外と深い

上のリストを見て、なぜいきなり心臓が出てきたのか不思議に思われたのではないでしょうか?
実は、歯と心臓は、切っても切れない関係にあるのです。

<実は怖い、歯と心臓の関係>

  • 抗凝固薬(血の塊を作らないように予防する薬)と出血の関係
  • 心臓と手術による菌の関係

これが影響するため、たかが抜歯1本でも入院適応となり、厳重な管理が必要な人もいるのです。

まず、抜歯をすれば当然、出血しますね。
人間には本来、出血したら止めるための仕組みが備わっています。
そうでないと、ちょっとした傷を負っただけで出血が止まらなくて、失血死してしまいますからね。
これは、人間が狩猟をしていた頃から備わっている機能と言われています。

しかし、この機能が悪さをしてしまう人がいます。
それは、全身の血管がつまりかけている人。

人間の血管は、本来ゴムホースのようになっています。
それが加齢や生活習慣病によって弾力がなくなり、ホースの内腔が狭くなって血液が流れにくくなっている人がいます。

この病気によって何が起こるか?
おわかりですね。
脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、肺塞栓・・・あらゆる血管が“つまる”病気になってしまいます。
これを予防するために、血液をサラサラにする薬をあえて飲んでいる人達がいます。

また、<「不整脈」は突然起こる!?生命保険に加入していなかったら…>でお伝えしたような心房細動という不整脈を抱えている人も、同じく血液をサラサラにする薬を飲んでいます。

そうなると、抜歯したときの出血が止まりにくくなります。
もちろん外来診察室でも止血処置はできますが、点滴による止血剤が必要になることもあります。
ですから、「血液サラサラの薬」を飲んでいる人は、全症例ではありませんが入院適応となることが多いですね。

抜歯のときには「血液サラサラの薬」を止めていた時代もありましたが、休薬期間中に血管がつまって塞栓症を起こしてしまうリスクの方が高いとして、最近では薬を止めて抜歯することは減りました。
どうしても止めなければならないという場合には、それこそ入院して点滴注射に置き換える「ヘパリン化」を行います。

抜歯1本で心筋梗塞を起こして亡くなったら、なんのための抜歯かわからなくなりますからね。

では、絶対的に入院適応となるのはどのような人でしょうか?
ここで、

  • 心臓弁膜症や先天性心疾患がある
  • その他基礎疾患がある
  • 心臓と手術による菌の関係

が登場します。

ギョッとするかもしれませんが、人間の口の中は非常に汚い場所です。
なんの害も起こさない菌から、抵抗力のない人(免疫力の低下している人)にだけ悪さをする菌まで、無数にあります。

そして、この口の中の菌が親知らずの抜歯をする際に、血液中に入りこんでしまったらどうなるでしょうか?
ほんの少しの菌であっても、身体の中に入って増殖してしまうと、大変なことになります。
本来の免疫力を持っている人なら問題なく終わるところが、免疫力の低下している人や、心臓の病気を抱えている人の場合は命に関わるのです。

抜歯で死んじゃうの!?( ゚Д゚)

親知らずを抜くだけで、普通は死にはしませんから、安心してくださいね。
特定の病気を持っている人はリスクがある、というだけですから。

例えば、心臓の弁膜症(心臓の血管を閉じたり開けたりするバルブがうまく機能しない病気)や、ほんのわずかの菌が心臓に入り込み、その病気のせいで血液の流れの悪い部分で繁殖してしまうことがあります。
こうなると、どうなるのでしょうか?

感染性心内膜炎という病気に罹ります。
一体、どんな病気でしょう?

MSDマニュアル家庭版にも、その原因として外科的処置が挙げられています。
(抜歯術のような傷を伴う処置ですね)
少し言葉が難しいのですが、一部抜粋してみましょう。

『心臓弁に障害があると、そこで細菌が捕捉されて心内膜にとどまり、増殖を始めます。
重症の血液感染症である敗血症( 菌血症を参照)では、多数の細菌が血流に侵入します。血流中の細菌の数が非常に多くなると、たとえ心臓弁が正常であっても心内膜炎を発症します。』

この病気は、命に関わります。
入院して、身体の限界までガンガンに抗生剤を投与しなければ治りません。
抗生剤のせいで下痢するとか胃が痛いとか、そんなことは言っていられません。
腎機能や肝機能が耐えられるところまで、とにかく抗生剤を投与するのです。

感染性心内膜炎は一度発症すると大変な病気ですから、予防が大事です。
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2001-2002年度合同研究班報告)における感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(P1066)にも、
ハイリスク群において抗菌薬の予防投与を必要とする手技の中で『出血を伴ったり,根尖を超えるような大きな侵襲を伴う歯科手技』として、1番最初に抜歯が挙げられています。

たった1本の抜歯で、死の淵をさまようなんて・・・嫌ですよね。
というわけで、もとから心臓弁膜症や先天性心疾患を持っている人は、ガイドラインに準じて入院で抜歯を行い、術後は予防的に点滴で抗生剤を投与します。

心疾患でなくても、易感染状態(感染しやすい状態)にある人も同じように敗血症と言って、身体に菌が負けてしまう状態に陥って命に関わるときがあります。
代表例として挙げられるのが、糖尿病です。
糖尿病は、それ自体が易感染状態になります。

他にも、リウマチを始めとした膠原病は、自分の身体を過度に攻撃してしまう病気で、炎症を抑えるためにステロイドを使用します。
ステロイドは炎症を抑えてくれる作用がありますが、同時に易感染状態になります。
ですから、何らかの基礎疾患によってステロイドを長く内服している人も、たかが親知らず1本の抜歯でも、術中に口腔内の菌が血液中に入り込んでしまえば危険を伴うのです。

親知らず1本でも、生命保険の対象?

何の問題もなく基礎疾患もない場合、親知らず1本抜くのにわざわざ入院しません。
しかし、ここまでお伝えしてきたように、心疾患のある人にとっては入院が必要な命取りの手術。
ですから、対象となる生命保険に事前に加入していれば、入院給付金と手術給付金を受け取ることができるでしょう。

けれども、抜歯自体が何十万もしない手術なのに、「手術1件につき〇〇万円」と、一律に給付金を受け取れるものでしょうか?
それはなかなかうまくいかないようです。

日本生命の総合医療保険(特約)の場合は対象外となっていますし、プレデンシャル生命保険では20%となっています。
いずれにせよ、「親知らずの抜歯で生命保険を使って黒字にしよう」というのは、通らないということですね。

生命保険はあなたのもしもを支えるもの。
決して、儲けさせるものではありません。

あなたに何の基礎疾患もなく、近所の歯医者さんで親知らずを抜いてもらえるのなら、ありがたく抜いてもらいましょう。
生命保険が使えなくて損した・・・と思うことはありませんよ。
リスクの低い身体であることは、本当にかけがえのない財産なのですから(*^-^*)

参考文献
『循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2001-2002年度合同研究班報告)』
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン