まだまだ誤解が多い、糖尿病の認識
『糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。』
一般社団法人 日本糖尿病学会 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告では、糖尿病をこのように定義しています。
一昔前は、「糖尿病=おしっこに糖が出る病気」と思っている人が大勢いました。
近年は健康志向が高まり、糖尿病の知識を豊富に持つ人達が増えてきました。
それはそれでよいことなのですが、間違った情報も増えてしまいましたね。
NHKですら、2017年2月22日に「血糖値を下げる!デルタパワーの謎」と題した特集で、“糖尿病に睡眠薬が効く”ととれる番組を放送して、大問題となりました。
ネットもテレビも、話題性に富むものが好まれます。
情報提供した医療関係者は、「糖尿病患者に睡眠薬が効く」などと安易なことは言わなかったハズ。
今回の放送内容は、視聴率アップのためにNHKがかなりの部分を編集して、取材を受けた側の意図とは全く違う内容にしたものと思われます。
私の勤務する病院にも、番組放送時に書いた自前のメモを持ってきて、「この睡眠薬をください」と言って来た患者さんがいました。
まだ糖尿病という診断はくだっていませんでしたが、「予備軍」と言われているからと。
それならまずは、生活習慣を見直して運動を取り入れるなど、努力するべきなのですが・・・。
医師は「何の根拠もないから出せない」と言ったのですが、今度は不眠を訴え、この患者さんは希望通りかつテレビの放送内容通りに、睡眠薬を処方してもらったのでした。
このように、糖尿病に関心をもってもらえるようになったのはいいことなのですが、間違った知識を植え付けられていることも多いのが実際のところです。
また、糖尿病というのは(2型においては)生活習慣に起因するものですから、薬やサプリメントで治そう(他力本願)と思っていることも間違い。
今回は、
【1】糖尿病というのはどういう病気か
【2】将来にどのような影響を及ぼすか
【3】生命保険に加入する際はどうなるか
についてお伝えしていきたいと思います。
少し長くなりますが、お付き合いくださいね。(*^-^*)
糖尿病って、どんな病気?どうなったら糖尿病?
糖尿病というのは、冒頭でお伝えした通り、「インスリン不足による慢性高血糖」状態のことをいいます。
ざっくり説明しますと、人間は糖分を摂ったら、インスリンというホルモンの力を借りて細胞内に摂り込みます。
糖とインスリンがペアになれたら取り込み成功となるのですが、糖ばかり多くてインスリンが足りなくなると、糖は相手に不足して血液中で漂ってしまいます。
このように、血液中に取り込まれずに漂っている糖が多い状態が「高血糖」。
糖尿病といっても、尿に糖が出る病気ではありません(結果としては出てきますけれど)。
インスリンは、膵臓で放出されます。
糖をたくさん摂取すると、最初のうちは膵臓が頑張ってインスリンを作り出し、なんとか糖とペアを組み、血管の中を流れる血液中から細胞内へ糖を取り込もうとします。
しかし、頑張り過ぎた膵臓がインスリンを作り出す力を出せなくなると、インスリンはそこからパタッと分泌量が減ってしまいます。
そして、インスリンが常に不足した状態となり、慢性高血糖となってしまうのです。
また、インスリンはただ分泌されていればよいのではなく、一つ一つの働きが弱くなり効きが悪くなることがあります。
これを「インスリン抵抗性」といい、糖尿病の人にはこのタイプも大勢います。
インスリン分泌量が減るだけではなく、インスリン抵抗性が増すことも、糖が血管内に余ってしまう原因となります。
私達の目には、このような血管と細胞レベルでの糖の移動(代謝)は見えません。
そこで、血液検査によって客観的なデータを出すことによって、糖尿病を診断するのです。
まず、糖尿病に関する検査は3つあります。
<糖尿病の検査>
1.空腹時血糖
2.糖負荷試験による血糖(75gOGTT)
(わざと糖分を摂ってから、糖分がどのように代謝されるかを時系列で追う採血検査)
3.随時血糖(食事に関係なく抜き打ちで行う血糖値)
4.HbA1c(過去1~2か月の血糖コントロールの状態を示す値)
これらの結果をもとに、糖尿病かどうかを診断します。
1~4それぞれの項目について、下の値が「糖尿病型」と決められています。
<糖尿病型のライン>
1.空腹時血糖:126mg/dl以上
2.糖負荷試験による血糖(75gOGTT):2時間値が200mg/dl以上
3.随時血糖:200mg/dl以上
4.HbA1c:6.5%以上
これらの基準値を踏まえて糖尿病診療ガイドライン2016 糖尿病診断のフローチャートに沿って診断し、最終的に糖尿病と診断します。
一過性の高血糖を除外するため、いくつかの条件がそろったところで診断されます。
実際は、病院に来た時に「今、測ってみましょう」と、食事摂取を問わずに抜き打ちで測定した随時血糖が200mg/dlを超えれば、ほぼ糖尿病です。
健康でインスリンの量と機能が正常ならば、一時的であろうと200mg/dlを超えないように、身体は調節しているからです。
あなたの健康診断の結果を、確認してみましょう。
糖尿病型に該当するものは、ありましたか?
糖尿病に罹ると、どうなるの?
ここからは、糖尿病に罹るとどうなるのか、将来的にどのような影響を及ぼすかについてお伝えしていきます。
先ほど、
『糖尿病はインスリンが足りなくなって血管内に糖が余る状態=慢性の高血糖状態』
と説明しました。
血管の中で糖が常に過剰に存在すると、血管はボロボロに傷んでしまいます。
糖尿病に罹ると困ることは、これに尽きます。
血管は本来、弾力を持ったゴムホースのようなものです。
それが、高血糖によって侵されると、ボロボロに錆びた鉄パイプのようになります。
そうなると、ゴムホースが波打つようには血液を送り出すことができなくなり、身体の隅々まで血液を潤滑に流すことができなくなってしまうのです。
こうなると、何が起こるのでしょうか?
それが、糖尿病の合併症です。
<糖尿病の3大合併症>
【1】糖尿病性網膜症:進行すると失明する
【2】糖尿病性神経障害:痛みや熱を感じなくなり、身体を守ることができなくなる
【3】糖尿病性腎症:尿を作り出せなくなり、人工透析をしなくては生きられなくなる
それぞれの障害の詳細はMSDの患者さんのための糖尿病ガイドを参考にしていただけるとわかりやすいです。
障害が出るのは、身体の中でも細い血管だけで栄養されている部分。
もともと血管が細いため、ボロボロになった血管では血液を十分に送ることができず、組織が虚血(血が足りない)になるのです。
一度進行したものは、いくら治療をしても回復することはありません。
腎不全に陥ってしまったら、誰かから腎臓を提供してもらって腎移植を受けるか、週に3回、4時間以上かけて人工透析を一生受けなくてはならないのです。
それが、糖尿病の怖いところなのです。
糖尿病の合併症は、3大合併症だけではありません。
血管がボロボロということは、全身どこに影響が出てもおかしくないのです。
<まだまだある!糖尿病による合併症>
- 高血圧
- 脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患
- 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患
- 足の壊疽
- ED(勃起障害)
- 排尿障害
- 易感染症(感染症にかかりやすくなる)
脳血管疾患も虚血性心疾患も、命に関わる病気です。
寝たきりになったり、病院に搬送される前に亡くなることすらあります。
また、神経障害によって胸痛を感じられないために、早期発見ができず死に至ることも珍しくありません。
それだけではありません。
排尿障害も放っておけば、そこから水腎症を起こし腎不全に陥ることもあります。
易感染状態であることから、膀胱炎が腎盂腎炎に発展して敗血症性ショックになることもあります。
(膀胱炎・腎盂腎炎の怖さは、<「膀胱炎」は、生命保険に関わりかねない怖い病気です…>でもお伝えしています)
細い血管がボロボロになって血流が悪くなると、足先が腐って壊疽を起こしてきます。
足が真っ黒になっても、神経障害のため痛みを感じません。
結果として、指先だけでなく膝上から足を切断することになり、義足を付けなくては歩けなくなってしまった人も大勢います。
怖くなって来ましたか?(そうでないと、困ります)
このように、糖尿病は3大合併症に付随して、たくさんの合併症を起こすことがあるのです。
そして、一度悪くなった機能は取り戻せない。
だからこそ、早期発見・早期治療、生活習慣の改善が必要なのです。
糖尿病と診断されると、急に生命保険の加入が厳しくなる!
糖尿病とはどのような病気か、糖尿病にかかるとどうなるかについてお伝えしてきました。
ここからは、生命保険と関連させていきたいと思います。
糖尿病が身体に悪いことは頭ではわかっていても、自覚症状が出るのはかなり進行してから。
健康診断で予備軍と指摘されていても、生活習慣の改善にはなかなかつながらないのです。
糖尿病は、全身の血管を侵す病気です。
3大合併症から、全身さまざまな病気に波及します。
たかが風邪⇒肺炎
たかが擦り傷⇒壊疽、切断
糖尿病+水虫+タコ⇒足に穴が開く、骨が溶ける!?
糖尿病患者が水虫にかかるとどうなるでしょうか?
たかが水虫が、とんでもないことになった人もいます。
<「水虫」がもたらす影響と生命保険>で実例を紹介していますので、ぜひ読んで参考にしてもらいたいと思います。
糖尿病は、「たかが」が大きな病気に発展します。
人間の体で、血管の通っていない場所はありません。
だからこそ、糖尿病に罹るとどんな病気が起こるか、予測できないのです。
病気に罹れば、それだけ入院や手術の適応になる可能性が高くなります。
健康な人であれば内服薬による通院治療で済む風邪が、肺炎を起こして入院になったり、重症化した場合には人工呼吸器につながることも。
そうなると、生命保険に加入している人は保険金や各種給付金を請求しますね。
糖尿病の患者さんは、入院治療になりそうな「リスク」が無数にあります。
そして、これだけのリスクを抱えた人が生命保険に加入したら、どうなるでしょう?
払い込まれた保険料よりも高い金額を、保険金・給付金として生命保険会社は支払うハメになるかもしれません。
生命保険会社は、人間の寿命や病気になる数など、膨大なデータをもとに利益率を計算して保険商品を考案・販売しています。
ここへ予測できないくらい高いリスクの人を入れてしまったら、計算しきれなくなりますし、当然利益も下がります。
こんなリスクの高い人とわかっていて、新規に加入を認めるほど生命保険会社はお人好しではありません。
これから下がるとわかっている会社の株を新しく買う人は、いませんよね?
それと同じです。
ですから、健康診断で異常を指摘された時点で、コマーシャルでみかけるような「安い保険」や「お得な保険」には加入できません。
糖尿病は一度罹ると「コントロールを付ける」ことはできても、「完全に治る」ことはないからです。
心を入れ替えて運動をして、今はコントロールが良好だったとしても、過去に高血糖状態にあった時期があれば、その分全身の血管のどこかにダメージは残っています。
そのダメージがきっかけとなり、病気を起こす可能性があります。
また、今はコントロールが良好でも、このあともずっと続くとは限りません。
糖尿病は生活習慣病ですから、本人の意思や自己管理能力に治療が大きく左右されます。
人間の意思なんて、そんなに強くありません。
私自身も、病気と故障のためにランニングとロードバイクに乗れなくなったとき、食べる量を減らせず、体重が増えてしまったっことがありました。
「このままでは糖尿病になっちゃう!」と焦りましたねぇ。
糖尿病という診断がついてしまった場合、生命保険に新規に加入するのはかなり分が悪いことを自覚しなくてはなりません。
そうなると、加入後何年間かは保険金が支払われなかったり、今罹っている病気に関しては対象外になったり、「特約」という名の、様々な条件を付けられます。
もらえる金額は少ない上に、それすらも条件が厳しいのに、こちらが払う保険料はコマーシャルで目にするものより高額。
糖尿病患者が生命保険に加入しようと考えると、こんな事態になります。
糖尿病と診断されて初めて自分の健康が不安になる人は、大勢います。
しかし、糖尿病になってからでは遅いのです。
糖尿病に罹らないために、あなたが今日からできること
今の時代、糖尿病に罹るのは簡単なことです。
むしろ、意識しなければ糖尿病に罹る方が自然かもしれません。
糖尿病が贅沢病なのは、過去の話。
100円の菓子パンだって、コンビニスイーツだって、身近で安価な物でも糖尿病には罹ります。
むしろ、健康のために野菜重視の食事をする方が高くつきます。
車があれば、自転車に乗ったり歩くことも必要なくなります。
わざわざ走る・ウォーキングの機会を設けなければ、動く必要性がないのです。
結果、体重は増えますね。
そして何よりも、人は必ず年齢を経るごとに基礎代謝量が低下します。
何もしていなくても消費してくれるカロリーが減るのですから、同じ量だけ食べていたら、確実に中年以降は体重が増加し、糖尿病へまっしぐら!となってしまうのです。
糖尿病がどれだけ怖い病気で、どれだけあなたの人生を脅かすものか、おわかりいただけたでしょうか?
糖尿病にならないために、既に糖尿病になってしまっているなら、合併症の進行を遅らせてコントロールを保つためにも、今日から行動開始しましょう。
もともと運動が生活に密着していない人だから、糖尿病になっているハズ。
いきなりストイックな目標を立てると、必ず挫折します。
一生のお付き合いですから、長い目で続けられることを目標にしましょう。
<ズボラなあなたも、これならできる!!>
- まずは夜だけ間食をやめる
- ごはんを2~3口減らしてみる
- 食べたものを記録する(難しければ、間食だけでも)
- 徒歩15分以内の場所は、歩いて移動してみる
- 麺やパンなどの小麦より、お米を主食にする
- 菓子パンを買おうと思ったら、おにぎりを選択する
- 外食するなら定食モノを選択する
- ゆっくり噛む
- テレビを観ながら筋トレやストレッチをする
- 本を読むときやゲームをするときは、寝ころばずに座る
などなど
いきなり間食ゼロやスイーツは和菓子だけ・・・なんてことは、続きません。
私もスイーツは大好きですが、「和菓子だけ!」なんてしたらストレスが溜まってしまい、反動でドカ食いしてしまいそう。
ですから、まずは間食の多い人なら寝る前だけは辞めるとか、お米が大好きな人は2口だけ減らすとか、少し頑張ればできそうなところから始めるのが、長続きするコツ。
運動は、カロリーを消費するだけでなく、インスリン抵抗性を改善させるために非常に有効です。
しかし、もとから運動の苦手な人が、いきなり運動しようと思うのは挫折のもと。
少しずつ取り入れて、動くことが“おっくう”から“楽しい”になってきたら、運動を積極的に取り入れてみればいいでしょう。
ほんの少しの心がけで、これならできそうですよね?
今日から、今から、トライしましょう(*^-^*)