誰にも更年期はやってくる
人間誰しも年をとり、更年期がやってきます。
40代や50代に入ると、ホルモンバランスが崩れて更年期障害に悩まされる女性が増えてきます。
最近どうも体調がよくないけれど、病院に行くほどでもないし・・・。
そんな人もいるかもしれませんね。
更年期障害は、病気と取り合ってもらえずに家族や周囲の理解を得られずに困っている人も多いはず。
今回は、更年期障害と生命保険について考えていきたいと思います。
一見何の関係もなさそうですが、実際にあったケースをもとに考えていきますね。
まず、更年期障害とはどのような症状が現れるものなのでしょうか?
<更年期障害の症状>
身体症状
- 顔や体が火照る、のぼせる
- 動悸がする
- 倦怠感(だるい)
- 多汗
- 手足の冷え
- 頭痛
- 立ちくらみ
- めまい
- 耳鳴り
精神症状
- イライラする
- やたらと落ち込む
- 漠然とした不安感におそわれる
- わけもなく涙が出てくる
- 不眠
更年期障害の症状は幅広いのですが、身体症状だけでなくて精神症状も多いのが特徴です。
どれも大したことのない症状のように思われますが、1日や2日ではなく、年単位で続くかと思うと・・・げんなりですよね。
日常生活にも支障をきたすようになってしまいます。
更年期障害で、仕事や日常生活が変わってしまう
仕事をしている人の場合、40代にもなると職場で重要な役割を担うようになっています。
自分自身がプレイヤーとして働かなくてはならない一方で、20代や30代の若い世代の指導も任されているでしょう。
40代と20代では、親子ほどの年の差が出てきます。
考え方も常識も、もう全てが違うんですよね。
仕事に対するとらえ方も。
だから指導も思うように伝わらないとイライラしてしまったり・・・30代の私ですら悩まされます。
そんなとき、40代や50代の女性は「〇〇さん、更年期だからさー」と陰口を言われることになってしまうわけです。
特に女性だけの職場ではその傾向が強く、私も若い子達が上司のことをそう言っているのを耳にしたことがあります。
もちろん、仕事上のパフォーマンスも下がります。
冷静で視野の広い判断ができなくなり、一度に処理できることが減って5年前の自分よりも仕事ができなくなっていると感じてしまう。
そうして漠然とした不安感を抱いてしまい、わけもなく涙があふれてくるなんて人もいます。
それまで家事育児とギリギリのところでバランスをとりながら仕事に励んでいた人も、更年期障害が加わると頑張りきれなくなり、退職する人もいます。
たかが更年期でと思うかもしれませんが、本人にとってはそれだけ深刻なことなのです。
では、専業主婦なら問題ないのでしょうか?
いいえ、専業主婦だって更年期に悩まされている人は大勢います。
専業主婦は家族のために自分の時間を捧げ、家事をこなすことを「仕事」にしています。
だからこそ、本当はとてもだるくて起きているのが辛いし、めまいもする・・・という状態でも頑張ってしまう。
専業主婦だからこそ、家事を完璧にこなさければいけないと。
そして、専業主婦は365日休みがないのです。
あくまでも私の個人的な印象ですが、まじめな人ほど更年期障害に悩まされているようにも感じます。
仕事に対しても、家事に対しても手が抜けないんです。
そして、自分の体調の変化を深刻にとらえてしまい、これがずっと続くのか・・・と目の前が真っ暗になってしまう。
更年期障害は生理痛や妊娠中のつわりと似ていて、同じ女性でも全く症状のない人もいます。
症状はある程度あるものの、「更年期だから仕方ないよね~」と上手に流せてしまう人もいます。
一方で、日常生活に支障をきたすような人もいます。
けれども、体質や個人差の範疇とされてしまうため、周囲の理解をなかなか得られません。
女性同士であっても。
更年期障害は病気じゃない。
だから、そんなもののために仕事を休むなんて、家事の手を抜くなんて、と思われてしまうこともあるのです。
こんな体質でなければ毎日シャキシャキ過ごせるのに・・・と嘆く人もいます。
程度によっては、たかが更年期障害とは言えないくらい振り回されてしまうんですね。
何よりも、理解されないということが苦しい。
でも、ちょっと待ってください。
あなたやあなたの周囲の人が悩んでいる症状は、本当に更年期障害なのでしょうか?
頭痛に冷えに動悸・・・全て更年期のせいですか?
便秘といえば、コーラック。
胃薬といえば、ガスター10。
動悸といえば、救心。
こんな具合に、自分自身が対象年齢でも使うわけでもないのに商品名を知っている薬って、ありますよね?
おそらくテレビのCMやネット、あらゆる広告経由で頭に残っているものだと思います。
そして、更年期障害の市販薬として圧倒的に知名度が高いのは、命の母ではないでしょうか。
近年、市販薬や漢方薬などドラッグストアで購入できる薬がかなり増えましたね。
忙しくて病院にかかれない現役世代の需要に加え、国がセルフメディケーション税制を導入したこともあります。
病院にかからずに市販薬で対処して病状が悪化する人のことを、悪く言うこともできないご時世になりました。
私が勤務する病院に、動悸を主訴として50代の女性が受診しました。
数年前から症状はあったのですが、50代に入ってから出て来たこともあり、頭痛や手足の冷えなども全てひっくるめて更年期障害だと思っていたのだそう。
事実、病院を受診したときにも腹巻着用で、腹巻だけでなく足先にもホッカイロを貼っていました。
それでも体が冷えて冷えて・・・と嘆いていました。
更年期障害というとのぼせるとか火照るといった症状をよく聞きますが、冷えを感じる人もいるんですね。
病院に勤務している私達は、受診をするのが比較的簡単にできます。
風邪くらいでも簡単に受診できますから、なんの抵抗もありません。
わざわざ市販薬に頼らなくても、病院で保険適応の薬を処方してもらうことができます。
ところが、一般の人の中には医療機関へ受診するハードルをとても高く感じている人がいます。
この女性も、民間療法やいろんな手を使って対処していました。
そこまで困っているのなら病院にかかればいいのに・・・とも思うのですが、なかなか踏み切れなかったそうです。
この患者さんが、全身のホッカイロに加えて飲んでいたのが、命の母。
漢方で体質改善できれば、全て治ると思っていたのでしょう。
確かに、冷え・頭痛・動悸は全て更年期障害の症状に含まれますね。
しかし、全て更年期障害で片づけてしまってよいのでしょうか?
更年期障害に隠れた、重大な病気とは?
ホッカイロや市販薬で更年期を乗り切ろうと頑張っていた女性ですが、動悸がだんだんひどくなり、ようやく病院を受診しました。
これは、勇気を出して受診しようと思うほどに悪化してきたことを意味します。
普段病院にかからない人が受診したときには、医療機関側も相当悪い状態かもしれないと身構えます。
それが胸部症状である場合は、特に。
まずは一般的な心電図やレントゲン・採血を行ったのですが、案の定、心電図で気になる波形が出てしまいました。
心電図には、健康診断などで行う静止した状態をとる12誘導心電図の他に、あえて運動負荷を加えてとる負荷心電図、24時間装着して記録をとるホルター心電図などがあります。
彼女の場合は運動負荷をかけるまでもなく、12誘導心電図で虚血(血液の流れが悪いこと)を示す波形が出たため、精密検査が必要となりました。
そして、心臓を栄養する冠動脈という血管の走行をみるため、点滴で造影剤を流しながら行う冠動脈造影CTを行いました。
コンピューターの画像処理を加えて冠動脈を根元から先まで3Dで立体的に描写するもので、ここまでは外来で対応可能です。
その結果、この患者さんには一部細くなっている部分があり、これが動悸・心電図の変化として現れたのではないかと推測されました。
診断は、狭心症です。
冠動脈造影CTでは、画像を作り出すだけで治療をすることはできません。
そのため、後日入院して心臓カテーテル検査を行うことになりました。
心臓カテーテル検査は、動脈に針を刺して冠動脈に造影を流しながら放射線をあて、血管の細くなっている部位を探していく検査です。
CTよりも高い精度で狭窄部位を探すことができますし、発見したらその場で狭くなった血管の内腔を広げる処置を行うことができます。
ただし、動脈を刺す検査なので、それだけ危険も身体的な負担もかかります。
ですから、この検査を日帰りで行う医療機関はまずありません。
もし狭窄部位に対する治療を行った場合、一般病棟に戻らずにICUで経過観察となることもあります。
さあ、話がだんだん大ごとになってきましたね。
更年期障害かと思ったら、狭心症の症状だったというわけです。
これはもはや体質とかいう問題ではなく、立派な病気です。
狭窄の程度によっては、今日明日にでも完全に血管が閉塞して、心筋梗塞に移行する可能性もあるのです。
動悸というのは結構アバウトなもので、人によってはそれが「胸苦しい」「息苦しい」と感じることもあります。
自覚症状と病状は必ずしも一致しませんので、狭心症に典型的な胸痛ではなく、動悸として感じていたとしてもおかしくないのです。
この女性は他の冷えや頭痛も重なっていたため、全て更年期障害による動悸と思っていました。
しかし実際は、人によっては胸痛と感じるような立派な狭窄部位があり、ほぼ治療が必要になるだろうという見込みで心臓カテーテル検査を受けることになったのです。
ちなみに、糖尿病で神経障害のある場合は本当に冠動脈が閉塞して心筋梗塞を起こしていても、全く痛みを感じないこともあるんですよ。
怖いですねぇ。
更年期障害を告知しないと、どうなるか?
ここからは、生命保険と更年期障害を合わせて考えていきたいと思います。
更年期障害の症状と思っていた動悸が、狭心症によるものだったとわかったこの女性。
今後は入院してカテーテル検査と治療を行い、定期的な通院が必要になります。
もしこの患者さんが死亡保険や医療保険に加入していたと仮定して、どのような扱いになるのか考えていきたいと思います。
状況をまとめてみましょう。
- 2~3年前から体の不調に悩まされていた
- 症状は動悸・全身の冷え・頭痛など複数に及ぶ
- 病気ではなく、更年期障害と思っていた
- 動悸はここ1~2か月でひどくなった
- 症状改善のため、命の母を飲んでいた(時期不明)
- 今回の検査の前には、大きな病気も通院歴もない
- 定期的な通院はなく、病院から処方された定期内服薬はない
- 冠動脈造影CTの結果、冠動脈の狭窄が認められた
- 治療を見据えた心臓カテーテル検査のための入院が必要になった
- 全身の冷え・頭痛に対する原因は依然として不明である
さて、この状況で女性が半年前に加入した医療保険や終身死亡保険があったとしたら、どうなるでしょうか?
繰り返しますが、彼女は全く病気と思っていませんでした。
狭心症との診断がつきましたが、冷えや頭痛は本当に更年期障害かもしれません。
医療従事者はこのような患者さんを「コンプライアンスが低い」「理解度が低い」ととらえます。
悪気はないのですが、患者さんの認識が非常に悪い(甘い)ということです。
これには、元の性格に加えて知的レベルや育った環境など、あらゆるものが加味されるので難しい問題です。
私達は、彼女が純粋に更年期障害程度で病院にかかってはいけないと思っていたから命の母でつないでいたことを本人の話から知っています。
しかし、生命保険会社にとっては何百万・何千万というお金のからむ問題です。
悪気がなかったでは済まされません。
事実、症状が出始めてから生命保険に加入していたかもしれません。
体調が思わしくないからこそ将来に不安を抱いて加入したのだとしたら、それはいくら更年期障害でも、体質で片づけずに告知しなければなりませんね。
医療機関にかかっていないので、病気という診断も治療も受けていませんけれど。
今回予定されている検査入院に対する入院給付金や、不幸にもカテーテル治療を受ける前に心筋梗塞を起こして亡くなった場合の死亡保険金は、支払い対象となるでしょうか?
これは、生命保険会社によって対応が別れるところだと思います。
表面上は、「今まで健康体だった女性が狭心症を起こし、カテーテル治療を受けることになった」ので、問題なく支払われるはず。
ただし、加入前から動悸があったことに保険会社が気づかなければ、の話です。
もし生命保険会社に自覚症状があったのを隠して加入したことがわかれば、それは告知義務違反となります。
入院給付金や死亡保険金の支払いどころか、契約を解除されるかもしれません。
これは、公益財団法人生命保険文化センターによる告知義務違反のページです。
(公益財団法人生命保険文化センター 保険法の概論 より)
黄色く囲った部分にあるように、告知義務違反の場合には保険会社は契約を解除することができますし、保険金を支払う必要がないとされています。
各種給付金や保険金の請求には、医療機関からの診断書が必要になります。
(傷害保険など、中には不要というものもあります)
ここに「2~3年前から動悸を自覚し来院」と医師が記入した場合には、保険金や給付金の支払いに「待った」がかかるかもしれませんね。
漠然と健康目的でビタミン剤を内服するのとは違い、女性は明らかに動悸に対して命の母を常用しているのに、契約時に告知をしていません。
これを意図的に隠したのか、それとも本当に悪意がなかったのかを証明することは難しいですね。
少なくとも、病院のカルテにはいつから症状があったか、今までどんな内服薬を使用していたかは治療上必要なので、残されているはずです。
もし生命保険会社が医師に面談を求めた場合、医師は中立の立場で事実を伝えますので、カルテに残されているように2~3年前から自覚していたことを伝えるでしょう。
実際の生保事例08では、医療保険に加入したあとに胃がんが発見された男性についてお伝えしましたが、この場合は明らかに故意によるものです。
この女性が本当に心臓カテーテル検査で狭窄部分に治療が必要となると、確実に1か月の高額療養費を超える金額がかかります。
場合によっては、心臓リハビリテーションが必要になるかもしれません。
期待していた入院給付金が受け取れなかったら、困りますよね。
更年期障害と生命保険が、関係ないとはいいきれないことをわかっていただけたでしょうか。
このように、告知するまでもないかなあというグレーゾーンが、後にもめるもとになることがあるんです。
病気というほどでもない体質の問題と思っていたら、本当に病気だった・・・という場合ですね。
全身カイロと命の母で、頑張って働き続けたこの女性。
看護師としては、数年放置していた彼女の治療経過が心配です。
同時に、ファイナンシャルプランナーとしては確実に給付金を受け取れる生命保険に加入しているのかな、これから新規加入するのは条件が厳しいだろうな・・・という心配も抱いたのでした。